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「あの日の約束は、そういう意味じゃなかったのか? あの時は二人とも幼くて、愛を育むにはまだ早かったが……今はもう立派な社会人だ。病気を克服し、強い大人として戻ってきた私を、君が愛してくれるのでは?」
不思議そうに首を傾げる麗華に、私は言葉を失った。あの涙の別れについて、こんなにも認識の相違があったとは……。
「あの、一つ確認していい?」
「何だい?」
「麗華って、私のことが好きなの?」
聞くまでもないことかもしれないけれど、どうしても聞きたい。
麗華は胸を張って、大輪の花がパッと咲くような眩しい笑顔を見せた。
「勿論だとも! 初めて言葉を交わした時から、ずっと君を想い続けてきた。この日を心待ちにしていたんだ」
どうしよう。この満面の笑みに応える術を、今の私は持っていない。
「えっと、もう会社行かないと遅刻するし、この話はまたの機会に」
私は問題を先送りにした。実際、そろそろ出社しないとマズい。今日は清掃当番なのだ。
「わかった。じゃあ、終業後に食事でもしよう。連絡先を教えてくれないか?」
「う、うん」
またの機会が来るの、早いな! 思ったけれど、急いでいる私は取りあえず麗華と連絡先を交換した。出社時間に余裕のある麗華を置いて、私はドキドキする胸を押さえながら小走りで出勤したのだった。
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