うさぎとダイヤモンド

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うさぎとダイヤモンド

 小雨降る月曜日、彼女は唐突に私の前に現れた。  通勤時間ど真ん中の朝八時半。勤務先の最寄駅に着いた私は、通い慣れたオフィス街を傘を差しながら歩いていた。淡いピンク地に同系色の花々が描かれた傘は、雨とブルーマンデーのもたらす憂鬱な気分を少しだけ和らげてくれる。今夜放送の恋愛ドラマのことだけを考えて、何とか一日のやる気を出そうと努めていると、 「彩音」  微かな雨音に混じって、耳に心地よい柔らかなアルトの声が、そっと私の名前を呼んだ。誰だろう? 聞き覚えのない声に、私は不審に思いながらも傘をちょっと後ろに傾けて、前方にいる声の主を見た。そして、息を呑んだ。  私を真っすぐに見つめていたのは、背の高い女性だった。歳は二十三歳の私と同じか、少し上に見える。モデルかと見紛うほど細くて長い手足。スレンダーな体型に沿う黒のパンツスーツ。ヒールの高いパンプスを履いているせいで、余計に背が高く見える。タイトな黒髪ショートヘアが、凛々しい顔立ちによく似合っていた。耳許に光るダイヤのピアスも素敵だ。  そんな、街角でファッション雑誌の撮影でもしているんですかと言いたくなるような美女が、傘も差さず、濡れるのも構わない様子で一心に私を見つめている。  赤いルージュに彩られた唇が、開く。 「彩音、待たせたね。迎えに来たよ」  私は一瞬固まってから……勇気を出して、こう切り出した。 「あの……どちら様ですか?」
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