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レイジ 偏差値50
「平と申します。よろしくお願いします」
先輩に同行して初めて訪問した顧客へ名刺を差し出す。
「この平は、あの平家の末裔なんですよ」
「ほぉ、それはそれは..」
先輩が俺のことを紹介すると、その担当の人は少し憧れるような感じで俺のほうを見た後、名刺に視線を落とす。それからなんとなく顔つきが曇るのは、俺が今まで何度も経験してきているパターン。
『平均』
これが俺の名前。
小学生の時には『平ちゃん』『均ちゃん』と呼ばれていたが、中学に入って少し英語を覚え始めると、誰かが『平均』と呼び始めた。これがまるで『あべれいじ』という人の名前のようにも聞こえ、最初の頃は『あべちゃん』、最後には『レイジ』というあだ名に落ち着いた。
名は体を表すと言うが、子どもの頃から身長も体重も学力も、何もかもがいつも平均値。みんなの輪の中心にいるような憧れの存在にはなれず、かと言って輪の外に弾かれるわけでもない。特徴が無いから、いてもいなくても目立たないってやつだね。
地元の公立高校から都内の二流大学に進学、卒業後はそのまま中堅企業に入社して、今年で社会人三年目の二十五歳。大学の時から一人暮らしを続け、現在彼女なし。
あっ、高校と大学の時に、それぞれ彼女がいたことはあるんだ。どちらも、
『なんか安心できる』という理由で付き合い始め、
『なんの変化もない』という理由でフラれた。
『盛者必衰』のように浮き沈みのある人生なんて無縁。これが俺の全て。
そんな全てが平均値、偏差値50男の俺が日本、いや世界中で俺一人だけだろう、運命的な出会いをしたんだ。
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