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レイジ 努力する
エルと約束した三か月後まで、俺はぼ~っとカレンダーを捲っていたわけじゃない。たった一週間、気持ちを変えただけでエルに気付いてもらえた。
『なんでお前みたいなもんが...』
エルと並んで歩いている俺を見る、男たちの視線と心の言葉。
言わなくてもわかるよ。それを変えるのは、君たちじゃない。俺自身なんだ。今さら容姿を変えることなんてできない。でも、格好や内面はどれだけでも変えることができる。
生まれて初めてかもしれない。自分自身と向き合い、必死になったのは。
会社ではできるだけのことをした。忙しそうな人に声をかけ、積極的にお客さんを周り残業も厭わない。常に挨拶をし、少しでも助かったと思えば感謝を口にする。
社内では褒められることが多くなった。嬉しいが、それだけ。驕ることも己惚れることもしない。俺が褒めてほしい相手はあなた達じゃないから。
スポーツジムにも通い続けて体も鍛えたし、ネットで向上セミナーみたいなのも受講したりね。それと大きな声では言えないけれど、ちょっと化粧品にも気を使い始めた。
なんとなくだけれど、気持ちの持ち方も変わってきた。
自分が楽だから着心地のいい服じゃなくて、人に不快感を与えない服装。
自分が楽だから居心地のいい部屋じゃなくて、誰かが来ても寛げる環境。
(目標にしたのはエルが来ても大丈夫なレベル。絶対にそんなことないけどさ)
とにかく、がむしゃらに頑張った。
打算?
義務感?
意地?
違う、違う、違う。
俺がそうありたいと、エルの隣に自信を持って並びたいと。恥ずかしくない自分でありたいと。俺の願望。
あっという間の三か月。今日はエルとの約束の日。
季節はすっかり夏になっていた。
俺は、前よりちょいオシャレをして、あのコーヒーショップへ向かった。
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