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レイジ 走る
流れ出す汗を手の甲で拭いながら走る。ジムに通っているおかげで少しは体力もついたみたいだ。足がもつれることもなく、約束のコーヒーショップへ到着したが、時計を見ると三十分くらいの遅刻。
ゆっくり深呼吸を繰り返し息を整えていたが、急に不安に襲われた。
エルは遅れた俺をまだ待っていてくれるだろうか。いや、そもそも三か月前の約束を覚えていてくれるのだろうか。
(エル、怒っていてもいい。店にいてくれ)
頭の中で、先ほどの老婆の顔と亡くなったばあちゃんの顔が重なる。
(ばあちゃん、俺を応援してくれ!!)
ゆっくりとドアを開け店に入る。
少し奥のいつもの席。俺に気が付いたエルが立ち上がり小さく手を振る。
しかも眩しいばかりの笑顔で。
「遅れてしまってすみません」
「大丈夫ですか、とにかく座りましょう」
「本当にすみません。待たせてしまって...」
「いいですよ、私だって均さんを三か月も待たせてしまった」
エルの優しい言葉、やっと会えた安堵感、待たせてしまった罪悪感。それに加えてさっきの老婆の不安そうな顔やおまわりさんの笑顔。そういうものが一気に押し寄せ、なんだか目頭が熱くなった。
ここは泣くところじゃないぞ。おしぼりで汗を拭うフリをして目元を拭いて胡麻化すが、エルにはわかってしまったようだ。
「今日は、一緒に行ってほしい所があります」
アイスコーヒーを飲み、ようやく気持ちも体も落ち着いた頃、エルが告げてきた。
「いいでしょうか? 変な所ではないですから安心してください」
『変な所ではない』ってどういう所よ。『安心して』って言われれば却って不安にもなるさ。普通の人が言えば怪しい言葉も、エルならきっと大丈夫。俺は深く頷いた。
いつものようにゆっくり話すこともなく、俺たち二人は店を出た。
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