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レイジ 天使に出会う
彼女のいない偏差値50男の週末は、非生産的な時間で潰れていく。学生時代の友人とは疎遠になったので、もっぱら一人で部屋にいることが多い。
テレビや動画を観るか、ゲームをするか、電子書籍を読むか、意味もなくゴロ寝...だいたいそんなところ。
ある日曜日。これから暑くなる季節に備え、薄着が欲しくて駅前まで出てきた。どうせ一人で部屋にいるんだから、オシャレなんて不要だろうと言う人はブッブ~だね。
部屋にいる時間が長いのだからこそ、快適で着心地のいい部屋着が必要なんだ。そういうことにケチらないのは俺のポリシー。だから、部屋の中だって居心地をよくするために案外綺麗にしてるんだ。誰も来ないけど...
スポーツ用品店で、モデル落ちだがよさげな物を安く買うことができた。スポーツもしないのにっていう突っ込みは無視。
ちょうど昼時になったので、コーヒーショップに入ってランチを食べ、食後のコーヒーを飲みながらスマホを覗く。電話とかメッセージとは無縁。読みかけの電子書籍を見るためさ。
「すみません。少しよろしいでしょうか?」
頭の上から女性の声がしたので顔を上げると、そこに立っていたのは天使のような美少女。年齢は俺より少し下、二十歳前後か。セミロングの黒髪で、ほとんど化粧なしと思われる白い肌。長いまつげで大きな目。ツンッとした鼻にややふっくらした唇。
昭和の女優でむちゃむちゃ美人の人っているよね。モノクロ写真の中で可憐に微笑んでいるのを思い出してほしい。具体的に名前を出すとその人のイメージになっちゃうから言わないけれど、そんな美人を思い出してほしい。とにかく、俺の前にいたのは...『ザ・美少女』
(あっ、ごめんなさい。俺に用事じゃなかったのね、ハズカシ)
こんな人が俺に話しかけるなんてことあり得ないし、同じ空気を吸っちゃイケナイ。俺は思わず息を止めて顔を伏せた。
「あの..少しよろしいでしょうか?」
また声がしたので、顔を上げた。思わずキョロキョロするが、どうみても俺に声をかけているらしい。
「はい? 俺ですか?」
「はい」
そう言って微笑む顔に、俺は間違いなくハートを撃ち抜かれた。
もう一度言う。
俺は、天使のような美少女にハートを撃ち抜かれた。
『キュン死』ってこういうことなのね...
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