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レイジ 更に登り詰める
「本当に我儘なお願いなんですけれど、来週も会っていただけませんか?」
「へっ?」
思わず変な声が出てしまった。
「ご迷惑でなければ、映画館とか連れて行っていただけませんか?」
「俺が?」
「はい。お忙しいですか?」
俺はブンブンと千切れんばかりに首を振った。
「ぜひ、ぜひ、是非。こちらこそお願いします」
エルの言葉は、俺が恐れていたような内容ではなかった。どういう理由かわからないが、俺はエルから映画に誘われた。すぐにスマホで近隣の映画館の上映スケジュールを確認する。
「どんな映画が観たいですか?」
「具体的にこれといったものはないんですが、均さんにお任せします」
具体的に観たい映画がないのに映画館に誘うって、そういうことだよね。
(いや、勘違いするな、舞い上がるな、冷静になれ、とにかく落ち着け)
オカルト、ホラー、アニメ...これはないな。
アクション、ラブストーリー...微妙。
「このコミカルな邦画はどうですか?」
「えぇ、楽しそうですね」
「では、また来週、ここで待ち合わせでいいですか?」
「はい、楽しみにしています」
そう言って、最高の笑顔を俺に残しエルが去って行った。
しかも、自分のジュース代をテーブルの上に置いて。
いったい、俺になにが起きているんだ。大きく息を吸い、自分を落ち着かせる。ふと目の前を見ると、彼女が飲んでいたジュースの空きグラス。ストローに薄っすらとピンクの口紅の跡。
思わず手を伸ばしそうになるが、ここから先に進んだら変態の領域。絶対にダメなやつ。俺は自分が過ちを犯す前に店員にグラスを下げてもらい、ランチを頼んだ。
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