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朝日が東の山々から顔を出し、森の中に光を差し込んでいた。 そこには、鳥たちのさえずりが響き渡っていた。 赤毛の少女リームは深く息を吸い込んだ。 涙と嗚咽の後、静かな森から漂う香りが、彼女を心地よく包み込んでいた。 そしてリームは、目の前の森から生き物の鳴き声を聞いた。 弱々しく、まるで泣いているかのような声。 リームは、何かが自分を呼んでいるような気がした。 何か大切なものを探すように。 冷たい地面に手をついて、リームは森の中へと進んでいった。 奥にあった木には果物が実っていた。 リームは背負っていた荷物を下ろし、なんとか木に登ってそれらを食べた。 ずっと飲まず食わずだった彼女にとって、自然の恵みは生命線になった。 森の外は砂漠だらけだ。 この森にいれば食べるものに困ることはない。 さらに奥からは川が流れる水の音がする。 その音と一緒に、森に入る前に耳に入った鳴き声も聞こえていた。 リームは森の奥へと歩を進めた。 けもの道のためとても歩きづらかったが、それでも足を止めなかった。 やがて川にたどり着いた。 遠くにはそれほど大きくない滝が見え、その側にある岩場には一匹の小動物がいた。 リームは鳴き声の主だと思い、ゆっくりと小動物に近づく。 「ウサギ……だよね?」 小動物はウサギだった。 だが毛の色は黄色く、額に螺旋状の真っ黒な角をがあった。 ウサギの毛が白いということは、まだ幼いリームも知っている。 それに角が生えていないことも。 ウサギでないのなら一体なんの動物なのだろうと思いながら、リームは黄色いウサギのような生き物の目の前にいく。 「この子……ケガしている!?」 リームは、ウサギのような生き物を近くで見て慌てた。 背中から血を流し、彼女が近寄ってきたことにも気がついていなさそうだ。 野生動物に襲われたのか? たしかによく見ると、リームが知っているウサギよりも小さい。 まだ子どもだ。 「待っててね! すぐになんとかするから! えーと、たしか家から持ってきた薬草があったはず!」 リームは背負っていた荷物を開けて、中から薬草を取り出した。 ウサギのような生き物に危険がないかなど考えず、両親から習っていたやり方で薬草を塗り込んでいく。 それから同じく荷物に入れていた乾いた布を取り出し、優しく丁寧に巻いてやった。 治療したリームがウサギのような生き物を抱いていると、うつらうつらと目を開いた。 黄色いウサギはキュキュと鳴くと、彼女の腕から飛び出し、真っ黒な角を向けてくる。 「早く離れな! そいつは幻獣だよ!」 リームの背後から声がした。 振り返ってみると、そこには褐色肌の女が立っていた。 頭にはターバンを巻き、腰には湾刀(わんとう)を差している。 「なにしてんだい!? 死にたくなかったら早く逃げるんだよ! 幻獣からしたらわたしら人間はエサなんだから!」 リームは幻獣という存在を知らなかった。 だから、どうして女が慌てているのかがわからない。 傷ついた黄色いウサギが襲ってくるなんて、リームにはとても思えなかったのだ。 言っても逃げようとしないリームを見た褐色肌の女は、腰に差していた湾刀を抜いた。 リームにはすぐにわかった。 この女の人が、黄色いウサギを傷つけようとしていると。 「待ってお姉さん! この子はケガをしてるの!」 「ケガだって? なに言ってんだよ、この子は。幻獣を傷つけられるようなヤツが、こんな小さな森にいるもんかい」 褐色肌の女を体を張って止めたリーム。 二人が揉めていると、角を突き立てて威嚇していた黄色いウサギがパタリと倒れた。 おそらく無理して動いたのだろう。 薬を塗ってもらったからといって、すぐに体力が戻るわけではない。 「ほら見て! まだ動けないんだよ!」 「しかし、こいつは幻獣……」 「幻獣だとかよくわかんないけど、ケガしている子にそんなものを向けないで!」 リームは倒れた黄色いウサギに駆け寄り、すぐに着ていた上着を脱いだ。 それで黄色いウサギを包み、優しく抱き上げた。 黄色いウサギは目を開き、リームの顔を見て呻いていた。 当然、彼女には何を言っているかはわからない。 動物の――いや、人間に幻獣の言葉はわからない。 わからないし、伝わらないかもしれないが、今は傷を治すことだけを考えてと、リームは黄色いウサギの耳元で呟く。 「大丈夫、大丈夫だよ。もうお姉さんも怖いことしないよ。ねえ、お姉さん」 「ああ。とりあえず、その幻獣に危険がないことはわかったよ」 褐色肌の女は湾刀を腰に収めると、リームの傍に近寄ってきた。 そして、二人は顔を付き合わせた。 互いに人と話すのが久しぶりなのか、二人とも言葉に詰まっている。 「ああ……わたしはダラールっていうんだけど……。あんたとその子の名前は?」 「あたしの名前はリーム。この子は……なんだろう?」 「その子はアルミラージっていう幻獣なんだけどね」 アルミラージと聞いたリームは、ハッと両目を見開くと、腕の中にいる黄色いウサギに向かって言う。 「なら、この子はルミーラ! うん、ピッタリだよ。あなたは今日からルミーラね!」
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