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01
朝日が東の山々から顔を出し、森の中に光を差し込んでいた。
そこには、鳥たちのさえずりが響き渡っていた。
赤毛の少女リームは深く息を吸い込んだ。
涙と嗚咽の後、静かな森から漂う香りが、彼女を心地よく包み込んでいた。
そしてリームは、目の前の森から生き物の鳴き声を聞いた。
弱々しく、まるで泣いているかのような声。
リームは、何かが自分を呼んでいるような気がした。
何か大切なものを探すように。
冷たい地面に手をついて、リームは森の中へと進んでいった。
奥にあった木には果物が実っていた。
リームは背負っていた荷物を下ろし、なんとか木に登ってそれらを食べた。
ずっと飲まず食わずだった彼女にとって、自然の恵みは生命線になった。
森の外は砂漠だらけだ。
この森にいれば食べるものに困ることはない。
さらに奥からは川が流れる水の音がする。
その音と一緒に、森に入る前に耳に入った鳴き声も聞こえていた。
リームは森の奥へと歩を進めた。
けもの道のためとても歩きづらかったが、それでも足を止めなかった。
やがて川にたどり着いた。
遠くにはそれほど大きくない滝が見え、その側にある岩場には一匹の小動物がいた。
リームは鳴き声の主だと思い、ゆっくりと小動物に近づく。
「ウサギ……だよね?」
小動物はウサギだった。
だが毛の色は黄色く、額に螺旋状の真っ黒な角をがあった。
ウサギの毛が白いということは、まだ幼いリームも知っている。
それに角が生えていないことも。
ウサギでないのなら一体なんの動物なのだろうと思いながら、リームは黄色いウサギのような生き物の目の前にいく。
「この子……ケガしている!?」
リームは、ウサギのような生き物を近くで見て慌てた。
背中から血を流し、彼女が近寄ってきたことにも気がついていなさそうだ。
野生動物に襲われたのか?
たしかによく見ると、リームが知っているウサギよりも小さい。
まだ子どもだ。
「待っててね! すぐになんとかするから! えーと、たしか家から持ってきた薬草があったはず!」
リームは背負っていた荷物を開けて、中から薬草を取り出した。
ウサギのような生き物に危険がないかなど考えず、両親から習っていたやり方で薬草を塗り込んでいく。
それから同じく荷物に入れていた乾いた布を取り出し、優しく丁寧に巻いてやった。
治療したリームがウサギのような生き物を抱いていると、うつらうつらと目を開いた。
黄色いウサギはキュキュと鳴くと、彼女の腕から飛び出し、真っ黒な角を向けてくる。
「早く離れな! そいつは幻獣だよ!」
リームの背後から声がした。
振り返ってみると、そこには褐色肌の女が立っていた。
頭にはターバンを巻き、腰には湾刀を差している。
「なにしてんだい!? 死にたくなかったら早く逃げるんだよ! 幻獣からしたらわたしら人間はエサなんだから!」
リームは幻獣という存在を知らなかった。
だから、どうして女が慌てているのかがわからない。
傷ついた黄色いウサギが襲ってくるなんて、リームにはとても思えなかったのだ。
言っても逃げようとしないリームを見た褐色肌の女は、腰に差していた湾刀を抜いた。
リームにはすぐにわかった。
この女の人が、黄色いウサギを傷つけようとしていると。
「待ってお姉さん! この子はケガをしてるの!」
「ケガだって? なに言ってんだよ、この子は。幻獣を傷つけられるようなヤツが、こんな小さな森にいるもんかい」
褐色肌の女を体を張って止めたリーム。
二人が揉めていると、角を突き立てて威嚇していた黄色いウサギがパタリと倒れた。
おそらく無理して動いたのだろう。
薬を塗ってもらったからといって、すぐに体力が戻るわけではない。
「ほら見て! まだ動けないんだよ!」
「しかし、こいつは幻獣……」
「幻獣だとかよくわかんないけど、ケガしている子にそんなものを向けないで!」
リームは倒れた黄色いウサギに駆け寄り、すぐに着ていた上着を脱いだ。
それで黄色いウサギを包み、優しく抱き上げた。
黄色いウサギは目を開き、リームの顔を見て呻いていた。
当然、彼女には何を言っているかはわからない。
動物の――いや、人間に幻獣の言葉はわからない。
わからないし、伝わらないかもしれないが、今は傷を治すことだけを考えてと、リームは黄色いウサギの耳元で呟く。
「大丈夫、大丈夫だよ。もうお姉さんも怖いことしないよ。ねえ、お姉さん」
「ああ。とりあえず、その幻獣に危険がないことはわかったよ」
褐色肌の女は湾刀を腰に収めると、リームの傍に近寄ってきた。
そして、二人は顔を付き合わせた。
互いに人と話すのが久しぶりなのか、二人とも言葉に詰まっている。
「ああ……わたしはダラールっていうんだけど……。あんたとその子の名前は?」
「あたしの名前はリーム。この子は……なんだろう?」
「その子はアルミラージっていう幻獣なんだけどね」
アルミラージと聞いたリームは、ハッと両目を見開くと、腕の中にいる黄色いウサギに向かって言う。
「なら、この子はルミーラ! うん、ピッタリだよ。あなたは今日からルミーラね!」
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