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「波多さん」
「んー?」
床を機械で掃除中の波多さんは気のない返事をした。俺は、表を掃き掃除した後。
「…やっぱ、忘れた釣り銭渡すのにコンビニバイトに追いかけられたのは、追いかけられた人生の内に入んねぇっすかね?」
「はぁ?」
よっぽど俺の発言がおかしかったらしい。
波多さんが俺の顔をまじまじ見た。
床掃除の機械を使用中は鼻歌交じりで楽しんでいるから、話しかけても適当な返事しかしないのに。
「頭でも打ったか?」
機械を止めて顔を覗き込んでくる。
「追いかけられたい人生でした。一度で良いから」
「…あぁ」
俺がそう言うと、波多さんは表情を暗くした。
24時の常連客は、深夜勤務の奴らには顔馴染みだった。
俺が1円玉渡してからも、買うのはいつも唐揚げにメロンパン、納豆、コーラと酒だ。
唐揚げの味はマイナーチェンジしたし、酒はその日によって違ったけど。
新作が入ったら、新しいの入ったんすよ、っておススメしたりして。
「何で自殺したんすかねー」
「さぁな…」
「…あれ、どれとどれを組み合わせて食ってたんすかねー」
「納豆はどれでもダメだろ」
「そうっすよねー」
納豆が合うのは白飯か豆腐、粉もん、味の無いやつくらいだろ?あ、卵や食パンもアリか。
「俺、意外と好きだったんすよー」
「あぁ、俺もだよ」
訳分からん組み合わせで、毎日24時に買って行く客。
掃除メインの深夜勤務に珍しい客は、退屈な日常にちょっとした刺激と楽しみをくれていた。
「あの人、手の指にタトゥーあったっすねー」
「へぇー、そうなのか」
あ、もう興味無くしたな。
床掃除に集中したいらしい。
適当な波多さんの返事に話すのをやめた。
ダサかったなー、タトゥー
何でNo.1だったんだろ?
左手薬指の、丁度、結婚指輪がはまるとこ。
そんなところに小さーくあった。
それこそ、指輪したら隠れるくらいのやつ。
「願掛け的な?」
まさかねー、と思いつつ、薬指かぁー、としばらく気になっていた。
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