4人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「えっ、今日迎えに来れないの?そういう事は早く言ってよもぅ…。分かっ
た。バスで帰るから。…お金?あるって。大丈夫だよ。…今日もカレー⁉︎
昨日もだったじゃん飽きたよ。…あーもう、分かったよ!」
通話を切って短くため息をついた。今日の不幸は三つ。一つ、部活がいつも
より早く終わってしまったこと。一つ、母さんに急用が出来て直ぐに家に帰
れない事。一つ、夕飯が二日連続でカレーな事。
「あ~あ、ついてない」
寄りかかっていた校門側の塀から体を離して、長い坂道を下っていく。照り
付けてくる夏の日差しを、頼りない右手で遮る。歩く途中外食してから帰ろ
うかとも考えたが、ここは田舎町の高校。コンビニも、暇つぶしが出来るよう
なオシャレなカフェもバスに暫く揺られなければたどり着けない。財布をチ
ラリと覗いてみる。…危うく帰れなくなる所だった。貧乏学生は寄り道すら
許されないらしい。
「バス停は確かこっち…あれか」
坂を下りて右手に、錆びついた停留所の標識とそれに似つかわしいベンチが
置いてある。いつもは母の送迎だったから、バス停を見るのは今日が初めま
してだ。オブラートに包むと流石田舎という感想しか出てこない。
「ありゃ、先客が居るや」
帰宅ラッシュの時間帯とズレているから、もしかしたら誰もいないのではと思っていたが、ウチの学校の制服を着た男子が一人、ベンチに座っていた。
最初のコメントを投稿しよう!