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51・歓喜の花
桂さんはふわふわうさぎ頭だ。
風に吹かれてそよそよと揺れる亜麻色の髪は柔らかそうで、前からずっと触ってみたいと思っていた。
「ねえ桂さん、頭を撫でてみてもいい?」
勇気を出してお願いしてみると、桂さんはこれでもかというように目を見開く。
めちゃくちゃ驚いているな。やっぱり調子に乗りすぎたかな。そう思いつつ様子を窺っていると、桂さんはもごもごと口を動かして悩みぬいたあと、小さな声でいいよと呟いた。
「やった!」
僕が諸手を挙げて喜ぶと、桂さんは僕が頭を撫でやすいようにかがんでくれた。
僕はドキドキしながら彼の頭に触れる。桂さんの髪は想像以上に柔らかくて、その手触りのよさに驚いてしまった。まるで綿毛みたいにふわふわしていて、物凄く撫でるのが気持ちいい。桂さんは恥ずかしそうにしていたけれど、僕は夢中で撫で続けてしまった。
「咲良、もういいかい?」
桂さんはもうやめてほしいようだったけれど、僕はあともう少しだけと駄々をこねる。
「ま、まだ撫でるのか」
「もうちょっと」
「待って、待ってくれ、これ以上は、」
「もうちょっとだけ、お願い」
「勘弁してくれ、そんなに撫でられたら出てしまうから!」
桂さんの悲鳴に、僕はようやく我に返ることができた。なにが出るのだと目を瞬かせていると、彼はわなわなと体を震わせて叫ぶ。
「ああ、もう駄目だ、出る!」
その絶叫とともに、桂さんから金色の花びらがぶわりと舞い散った。
花びらを浴びせられて、僕は口をあんぐりと開けて固まる。
桂さんは耳まで真っ赤になると、頭を抱えて小さく呟いた。
「……だから出ると言ったのに」
床に散らばった金色の花びらを残し、桂さんは僕を置いて逃げ出す。
一人残された僕がしばらくぽかんとしていると、悲鳴を聞きつけたのだろう、紫苑さんがひょっこりと顔を覗かせた。
「さっきからなにを騒いで……うわ、随分と派手にやったね」
金色の花びらを見て呆れた顔をする紫苑さんに、なにか知ってるのとおずおずと尋ねれば、彼女は苦笑いしながら花を指さした。
「知らなかったの? これは歓喜の花だよ」
「か、歓喜の花?」
「嬉しいことがあると、兄さんは花を出すんだ」
紫苑さんの言葉はあまりに衝撃的だった。
だってそれはつまり、桂さんは僕に頭を撫でられて嬉しかったということで。
想い人のあまりに可愛らしい一面ににやけるのが止まらない僕を見て、紫苑さんはやれやれという顔で花を片付け始めていた。
その翌日、仕返しと称して桂さんに頭を撫でられ、サラサラだと喜ぶ声に白旗を上げてしまうのだった。
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