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52・花は口ほどにものを言う
「そんな目で私を見るのはよしてくれよ」
突然桂さんにそう言われたのは、彼が歓喜の花を散らばせたその翌日のことだった。
恥ずかしがって部屋に引きこもっていた桂さんがようやく出てきてくれたのは、今朝のこと。僕は内心にこにこしながらも、また引きこもられないよう表には出さずに接していたのだけれど、彼は突然僕にそんな言葉を投げつけたのだ。
「そんな目、って?」
そんなに変な目つきをしていただろうか。そう思いながら訊き返せば、愛想のいい彼らしくもなく露骨に目を逸らされる。
「いつもいつも目にペチュニアを浮かべてさ。そんな目で見詰められる私の身にもなってくれ」
「……ペチュニア?」
全く意味がわからない。だけど桂さんはそれきり目を合わせてくれなかった。一人戸惑う僕を置いて、気まずそうにそっぽを向くだけだ。
そんなに彼を困らせているのだろうか。もしかしたら、僕が頭を撫でたことを本当は怒っているのかもしれない。そう不安に思い始めていた僕は、そこでふとあることに気付く。
背けられた桂さんの横顔が、恥ずかしそうに真っ赤に染まっていたのだ。
その後、わけがわからないまま桂さんと別れた僕は、丁度学校から帰ってきた波瑠君に全てを打ち明けた。
すると波瑠君は、心底面倒くさそうな顔で教えてくれる。
「……心配しなくても、それは桂さんが照れてるだけですよ」
そう言いつつ彼が検索してくれたペチュニアの花言葉を見て、とんでもない打撃をくらった僕は真っ赤になってしまう。
「あなたと一緒なら心が和らぐ」。僕の瞳に浮かぶというその花は、言葉よりも余程雄弁なのだった。
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