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55・なぎさとみぎわ
桂さんのところには時々、親戚の女の子達が遊びに来ることがある。
彼女達の名前はなぎさちゃんとみぎわちゃん。まだ小学校に上がったばかりの、天真爛漫で好奇心旺盛な双子の姉妹だ。
礼儀正しくて大人びている方が姉のなぎさちゃん。いつも明るく活発なのが妹のみぎわちゃん。彼女達はいつでも元気いっぱいで、それゆえにいたずらが多いのが悩みの種である。そんなだからお人好しで押しに弱い桂さんは、彼女達がシェアハウスに遊びに来ると振り回されてばかりだ。
今日もまた遊びにやってきた双子は、桂さんが強く止めないのをいいことに彼の髪を可愛らしく飾り付けていた。桂さんは苦笑いしながら助けてほしそうにこちらを見ていたけれど、リボンやヘアピンで飾り立てられた姿が可愛らしいのであえて気付いていないふりをする。だけどそのうち飽きてきたのか、つまらなそうな顔でみぎわちゃんがこちらにやってきた。
「あれ、もういいの?」
「うん、あきたぁ。なぎさ、みつあみにチャレンジするので必死でぜんぜんかまってくれないんだもん」
大好きな姉にかまってもらえなくてすねてしまったのだろう、みぎわちゃんは頬を膨らませる。僕は微笑ましい気持ちで、本当に姉妹仲がいいんだねと告げたけれど、それに対してみぎわちゃんは少し微妙そうな顔をした。
「ん? どうかした?」
変な反応が気になって訊いてみると、みぎわちゃんは考え込んでからそっと耳打ちしてくる。
「あのさ。実はあたしたち姉妹じゃないんだ」
「えっ?」
驚いて声をあげれば、みぎわちゃんは慌てて静かにとジャスチャーした。
「ナイショだよ。さくらにだけ教えてあげるんだから」
「う、うん、わかった」
とりあえず頷けば、みぎわちゃんはひそひそと囁く。
「あのね、なぎさは押入れのユーレーだったんだよ」
「幽霊?」
「そう。いっつも押入れの中にいたの。最初見たときはびっくりしちゃった。だって押入れを開けたら、あたしとおんなじ顔の女の子が体育座りしてつまってたんだもん。いつ開けてもいるから、きっとこの子はユーレーなんだなって思ったの」
だってくらーい顔であたしのこと見るんだよ、とみぎわちゃんは眉をひそめて言う。
「いつもすっごくシンキクサイ顔してるからさ、あたし言っちゃったんだ。ずっと押入れにいたらそりゃつまらないよ。出てきておいで、あたしといっしょに遊ぼうって。そしたらね、いつの間にかあの子、あたしのお姉ちゃんになっちゃった」
でもいいんだ。なぎさのこと大好きだし、いっしょにいて楽しいから。そうにっこり笑うと、みぎわちゃんは止める間もなくなぎさちゃんのもとへ戻っていった。
残された僕は、狐につままれた気持ちで仲良く並ぶ双子の背中を見詰める。みぎわちゃんの話が本当なら、どうやら彼女は自分と同じ顔の幽霊と姉妹になってしまったようだ。
だけど、と僕はますます奇妙な気持ちで首を傾げる。
実は今の話、以前なぎさちゃんからもまったく同じことを打ち明けられたことがあるのだ。
それも、押入れの中に居たのはみぎわちゃんだったという話で。
一体どちらの話が本当で、どちらが幽霊なのか。考えてもわからず、僕はただ仲よさげに手を繋ぐ二人を眺めることしかできないのだった。
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