2 残念令嬢のルーツ。

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2 残念令嬢のルーツ。

 リリーは今年17歳になる公爵令嬢である。  母親は美しいハニーブロンドにパッチリとした翡翠の瞳をした華やかな容姿をしており社交界の薔薇と呼ばれるくらいの美魔女で貴族女性の間でブイブイ言わせているやり手の公爵夫人である。  3歳年上の兄はその母親に良く似た容姿を受け継いだ上に宰相補佐としても優秀、更には次期公爵という優良物件。当然社交界では貴族の未婚女性から熱視線を鬱陶しいくらい送られている人気者だ。  なのにリリーは父である公爵に似て黒髪に濃い紺色の瞳という、明るさが皆無な地味な配色で、どちらかというと切れ長な目でこれといって特徴のない平凡顔。  体型は若かりし頃の父に似て子供の頃から背が高く、しかもどちらかというと色黒で幼い頃は男の子によく間違えられたという経歴の持ち主だ。  それでも王弟でもある父親が好きだったので子供の頃は良かったのだ。  しかし、6歳のある日、王家のお茶会に招待された時に転機が訪れた。そう悪い意味で。  確かにリリーは若干色黒で、地味な配色ではあったが決して所作が下品だとか、顔が不細工という訳では無いのだが見慣れない女の子らしいドレス姿に驚いた第3王子が何かの拍子に『残念』という言葉を使ったのである。  いとこ同士仲が良く、男の子のような格好で庭を転げ回っていた彼女が突然令嬢の格好で現れたので驚いただけだったのだろうが、その失礼極まりない言葉に『令嬢』という尾鰭が付いた。  そしてその渾名を付けたのが、よりによって第3王子だったのが災いして不名誉な渾名が10年経った今でも密かに囁かれている始末。  ――王族の影響力を考えることなく失言をした第3王子は未だに公爵家一家に嫌われているのは王城内では公然の秘密である――  家族仲も特段悪くないし友人もそれなりにはいるリリーだが、婚約者が3年前にできたせいで社交の場で『残念令嬢』という渾名が増々威力を増すことになった。  実は婚約者となったルパートは、本物の王子様より王子様らしい容姿をしていると言われるくらいのイケメンで、貴族の御令嬢にやたらと人気があり、妬まれたリリーは何かの折にその渾名を引き合いに出されては陰でバカにされるようになったのである。  面と向かって悪口を言って来ないのは公爵家という家柄があるからだが、ワザとらしく聞こえるように囁くのが貴族の御令嬢の陰湿なやり方だ。決して上品とは言い難いその手の遣り口はよくある事といえばそうなのだが・・・  もう10年以上言い続けられているリリーとしてはこの状況にもう本気で飽き飽きしていた。 「そもそも残念令嬢とか言われて嬉しいわけないでしょ?」
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