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4 残念令嬢の憂い。
「別にさあ、政略婚だからって婚約が解消出来ないわけじゃ無いのよ~?」
「急に女子に戻んないでよ」
「えー、こっちの方が気楽で良いかなって思ったのにぃ~」
そう言って、カウンターに両肘をついて組んだ手の上に顎を置いてあざとくウィンクをするアルフィー。
「・・・まぁ確かに」
確かに何もかも知っている異性の幼馴染みより、見知らぬ美女の方が気持ちを吐露しやすいのは確かだ。しかも婚約者の浮気現場を初めて目撃したのもアルフィーと一緒だった為、色々と説明する手間も省けて会話も楽である。
こういう時は異性より、見かけだけでも同性の方が気が楽だと知ったのもごく最近だ。
「だってさ、私って取り立てて美人じゃないし。身長は女性にしては高すぎるしさ、女らしく無いから仕方ないかなって・・・」
「あのな、一応オマエ公爵家の御令嬢なんだぞ? あっちは侯爵家。バカにされてるって分かってる?」
「急に男に戻んないでよ。それとさ親の爵位が上なだけで私が彼より優秀なわけでもないし、そもそもあんだけ美形なのよ? 月とスッポンじゃないの」
「あら、御免遊ばせオホホ。ていうか、そんな事思ってたの? リリーは十分可愛いわよ?」
そう幼馴染みに言われて思わず俯くリリー。
「私の何処に魅力があるの? 小さい頃から色黒で男の子に間違えられててさ。母様も兄様も華やかで綺麗でしょ? 私だけ地味でお茶会に招かれても『お母様に似なくて残念ですわね』とか『兄上と性別が入れ替わっていればよかったのにねえ』とか言われ続けて、ドレスを着たら家族に綺麗って言われて有頂天になってたら今度は『残念令嬢』ってあのバカに言われた途端それが定着しちゃってさ・・・」
ドレスの膝にポタポタとシミが広がる。
「リリー・・・」
「ルパートはイケメンで優しいわ。確かに浮気症だけど」
「それは不味いんじゃないかしらね・・・」
「でも私には本当に優しいのよ? 渾名なんか気にしなくて良いって、そのままで可愛いって言ってくれるし、エスコートだって月1回のデートだってちゃんとしてくれてる。誕生日のプレゼントも欠かしたことはないわ。婚約者としての義務はキチンと果たしてくれてるの」
「そ~なのよね~、ただ浮気症なのよね。あれは病気だわよ。八方美人っていうのもやり過ぎると唯のスケコマシだわ」
アルフィーが溜息をついた。
「スケコマシ・・・」
貴族であるアルフィーの口から飛び出したセリフにしては少々下品な言葉に驚いて顔を上げたリリー。
お陰で涙が引っ込んだのは良かったのかも知れない。
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