コロナ禍の面会禁止

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コロナ禍の面会禁止

いつお別れが来るかわからない父は、コロナ禍の入院で面会禁止になった。 七夕の日に会ったきり、面会できずにいたから、まさしく乙姫と彦星だ。 窓越しに携帯電話を持って面会する事は許されたのに、拒否された。 酷い、と看護師さんに言ったら彼女はこう言った。 「顔を見たら泣いちゃうかもしれない、と言ってましたよ」 泣いてもいいじゃないか、 カッコ悪くてもいいじゃないか、 その顔を一目見ておきたかったんだ。 病院の外にいても、中にいても、 私達はいつどうなるかわからない世の中にあった。 ただ会いたかったんだ。 父親の顔を確かめておきたかったんだ。 この世界に存在する事を確かめておきたかったんだ。 それから8ヶ月が過ぎた。 病院からの封書で面会禁止が解除された事を知って、私達は父の元に向かった。 窪んだ目には力がなくて、痩せた体は縮んでいた。 私の事はわかった。 まだ覚えていてくれた。 「また会えたね」 今日一日、 明日も一日、 こうして一日一日を生きていく。 そしてまた面会禁止になった。 会いたい。 憎たらしい父親が力無く弱っていく。 決して善人だった訳じゃない。 ただ父親だった、というだけの人。 だけど、それは一人しか存在しなくて。 また会える日を待ち望んだ。 そしてまた、面会禁止は解除された。 「また会えたね」 そして父はポツリと言った、 「帰りたい」
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