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一  え~、毎度ばかばかしい話をしております。  日本人って言うのは、あれですね。とにかく武将ものが好きですね。  一年間の長いテレビドラマでも、近代ものより、戦国武将を取り上げた方が観てくれる人が多いとか、そうでもないとか、(ささや)かれております。  戦国武将と言えば、信長、秀吉、家康、など、代表的な武将が名を連ねています。  三武将を取り上げて、 「鳴かぬなら殺してしまえ時鳥(ほととぎす)」 「鳴かぬなら鳴かせてみせよう時鳥」 「鳴かぬなら鳴くまで待とう時鳥」  なんていう句が詠まれたとされております。  三者三様、気が短い、工夫、忍耐、それぞれの特徴が伝えられているわけです。  時代のヒーローっていやぁヒーローでもあるわけで。  それぞれにスポットをあててかいても絵になるお三方です。  何度も取り上げていくと、ネタも同様になってくるわけでして、当たり前といやあ当たり前ですがね。 「歴史は変えられない」っていう大前提で、物語は成り立っているわけですから、なんでもありっていうわけでもございません。  さて、そこで制作者たちがあれこれ試行錯誤(しこうさくご)を繰り返された結果、タイムスリップっていうしろもので新たな物語を作り上げられました。  現在人がタイムスリップをして、信長、秀吉、家康、に成り代わって時代を生き抜こうなんて壮大なスケールの物語になるわけです。  経緯は手を替え、品を替えて、展開するわけでして。  想像が広がるっていうことですね。  なかには時代を変えてやろう、っていう不届き者まで現れる。  始末に負えない野郎のお話です。  2023年5月1日、現在17歳、高校二年生になる男です。  名は、奥島(おくしま)颯太(そうた)。颯太とは、いかにも今風(いまふう)の名前です。  なに太郎、なに之介、とか、時代を(さかのぼ)っても違和感を覚えない名前とは違います。  この男、家は農業を営んでおります。  身体は人並み以上に(きた)えております。  部活はしておりませんが、剣道とでもいますか、チャンバラには熱を入れて鍛えているといった感じですが、何しろ自己流ですので、あまり自慢にもなりません。  学業は、と言えば、あまり(かんば)しくないといった方がいいでしょう。  夢は、タイムスリップをして時代を変える。  なんていう、ばかな夢を見ております。  はてさて、なんと言って良いものやら。  ある日、学校の帰り道、同級生の登別(のぼりべつ)海斗(かいと)と一緒に歩いておりました。 「颯太はいつも歴史だけは良い点だな。他の教科もそれだけ頑張れば成績が良くなるんじゃね」 「僕は、歴史に興味があるんだよ」 「どうして、歴史だけ?」 「わかりきったこと訊くなよ。戦国時代にタイムスリップして、武将として時代を作る」 「わかりきってねぇよ。なに、ばかなこと言ってんだよ、颯太。そんな夢みたいなことあるわけないだろ。お前、気持ち悪いよ」 「そんなのわかんねぇだろ、海斗。人間、いつ何時でも、備えっていうものが必要なんだよ。だからこれもカバンに入れて持ち歩いてんの」 「なんだよそれ?」 「イモだよイモ」 「そんなもの持ってどうするんだよ」 「海斗、よく聞け。イモはひもじいときに重宝(ちょうほう)するんだよ」 「なにばかなこと言ってんだよ。そんなものより、教科書を入れとけよ。もう付き合いきれねぇわ。じゃあな、またな」  と同級生があきれ顔をして帰っていきました。
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