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二  帰り道、颯太が川岸の土手をのんきに歩いていますと、突風が吹き起こり、身体のバランスを崩し、土手から転げ落ちました。  うわ~!  ゴロゴロゴロ。  やべぇ。と思った瞬間、なにやら妙な感覚を身体に感じました。  土手を転げているのに、身体が浮いているような、景色がねじ曲がっているような、それでいて痛みを感じない。  この男、想像力だけは豊かなんです。  転げ落ちながら、動揺するでもなく、慌てるでもなく、逆に喜んでおりました。 「来た、来た、来たぁ~! この感覚、もしかしてタイムスリップ? 僕の時代の幕開けだぁ!」  そんな悠長(ゆうちょう)な期待を胸に抱きながら、颯太は気を失いました。  さて、気を失っていた颯太が、身体になにかが当たる感触を覚えると、目を覚まします。  コツ、ツンツン。  小石が身体に当たり、なにかで身体を突かれます。  徐々に意識を取り戻しますと、自分のまわりで騒がしさを覚えました。 「こいつ、死んでないか?」 「いや、生きてるみてぇだ」 「変な着物を着てるな」 「こいつみたことねぇぞ」 「異人か?」  なんて、(いぶか)しんだ声が聞こえてきました。 颯太が目を覚ましますと、視界には着物を着た3人の子どもたちがいました。  「うわ、生きてる」、「なにもんだ」、「変な格好している」と口々に話しています。  興味半分、怖さ半分で、小石を投げたり、颯太を棒きれで突こうとします。  「おい、やめろ。痛ぇだろ」とやめさせようとすると、「うわっ、話した」などと驚きながら颯太に向けて指をさします。  一人の子どもが「父ちゃんと兄ちゃんを呼んでくる」と言って駆け出しました。  颯太はむくっと立ち上がり、周りを見渡しました。  そこには自然だけが広がる視界でした。一瞬驚きを覚えました。  えっ?  ウソ?  マジで?
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