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三  颯太がもう一度辺りを見渡せば、道がない。いや、道はあるけど、アスファルトの道路がない。  建物は?  ビルは?   電柱は?  山と田んぼだけ……。  大きな川がある。  ふと視線を上げて遠くを見れば。  あれは城じゃねえか。  城だけが目立ち、悠然(ゆうぜん)と構えて(そび)え立っていました。  しばらく沈黙の後、 「これって、戦国時代にタイムスリップしたってことだよな」  と颯太は思わず口ずさんだ。  驚きではあるけれど、不安や恐怖心は覚えませんでした。それどころか颯太は心の中で喜びを感じていました。胸の奥から小躍りしたくなるような思いが込み上げてきます。  来た来た来たぁ!  僕の時代が来たぁ!  僕が武将になり、時代を作る。  などと、虫の良い思いを胸にして、颯太は拳を握りしめました。  ふと気付くと、遠くの方から(くわ)と棒を持って走ってくる二人の男が目に移りました。  やべぇ、逃げなきゃ。  颯太は山の方へ向かって逃げました。  逃げながらふと思いました。  今、捕まえられると荷物を奪われてしまう。荷物はいったん隠してあとで取りに来よう。  途中、山の中へ逃げ込み、パンだけを手にして草の茂みに他の荷物を隠します。  そばの木には目印になるようにと傷を付けました。  それから元の道に戻り、辺りの景色を忘れないように、目印になる木や小さい川など印象に残しながら山の中へと走り出しました。  どうにかこうにか逃げ延びた颯太はその場に座り込んで休みを取ります。  まずは、状況を把握しようと思い返した。  土手を歩いていると転んで気を失った。  僕を怪しんだ子どもたちが、小石を投げてきたり、棒きれで身体を突いてきた。  僕が気を取り戻せば、子どもたちは驚いて、父ちゃんと兄ちゃんを呼びに行った。  残された子どもは僕を観て、驚いたまま立ちすくんでいた。  こんなことを言っては失礼だが小汚い着物を着ていた。身体の汚れが目立つ。  現在人とは思えない風貌だ。  ふと気付いて周りを見渡せば、大自然が広がっていた。そこには道路もなければビルや建物もなく、なにも障害物がない。遠くに聳え立つお城がハッキリと見えた。  城だけが悠然と構えて佇んでいた。  威厳と風格と時代の象徴がそこにあった。  間違いなく戦国時代にタイムスリップしたってことが理解できた。  やっぱりそうか。颯太は不安ながらもワクワクする気持ちも感じた。
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