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五  颯太はひもで縛り上げられ、村まで連れて行かれました。  もしかしたら殺されるかも。食べられるってことはいくらなんでもないよな。  などと不安を胸にしながら颯太は周りの人を見ていました。  昨日、棒きれを持って追いかけてきた男が颯太に近づき訊ねます。 「おい、お前、なにもんだ? どこからきた?」  颯太は一瞬考え、未来から来た。とか正直に言っても信じてもらえない。下手したら怪しまれて命を取られかねないと判断しました。  ここはこれしかない。記憶喪失を装う。 「昨日、足を踏み外したとき、頭を打って、なにも覚えていないんです」 「なにも覚えてないだと。うそつけ」 「ほんとです。名も思い出せないんです。わたしがどこから来たのか、なにものなのか。場所はなんとなく見覚えがあるような無いような」 「もしかして忍者か? 根来か?」 「いえいえ、滅相(めっそう)もない。ほんとにただの者です」 「太郎、あんな罠にかかるおっちょこよいが忍者なわけないだろ」  と鍬を持って追いかけてきた父ちゃんが言えば、 「確かに」と太郎はすぐに納得して、颯太に顔を向け、 「じゃあ、帰れって言っても、どこにも帰れないんだな?」  と確認をします。 「はい。どこに帰って良いのかもわかりません」  すると、父ちゃんが結論を出します。 「それじゃあ、しょうがねぇなぁ」  やった。信じてくれた。と颯太は安堵しました。 「それじゃあ、縛ったまま古屋にでも置いとけ。太郎」 「父ちゃん、どうすんだ。こんなやつ」 「ちと考えるわ。一応、お前が監視しとけ」  颯太は太郎に連れられて小屋に行き、そこで手・足・身体を縛られた。 さて、家の中では、あの怪しい男、颯太について、家族で話し合っております。  やはり、お侍さんに突き出そう。とか、突き出した自分たちが罰せられないか。などと話し合った末、明日、結論を出すことに決めた。  現在風に言えば、「決めへんのか~い!」というツッコミが入るところです。  一方、颯太は手や足を少しずつ動かし、縄を緩めて手足を自由にした。  だが、今、逃げても知らない土地、同じ紀州、和歌山であっても時代が違う。どこかでまた誰かに捕まえられるだろう。もし、危険な相手なら殺されかねない。まずは、状況把握が大事だ。戦になれば、活躍すれば良い。必ず僕の時代が来る。と考え、そのまま身体を自由にして寝入りました。
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