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六
六
翌朝、颯太は異様な雰囲気を感じて目を覚ました。
太郎と呼ばれている兄ちゃんが怖い形相で颯太を睨みつけていました。
ギョッとして颯太は腰を退き、上半身だけを上げて眼を合わせました。
「おめぇ、縄をほどいたな」
「あの、縄が痛くて外して寝ました。逃げる気はありません。なにも覚えていませんので」
「それもそうか。逃げる気があればとっくに逃げてるわな」
と兄ちゃんは颯太の言い訳をあっさり信じてくれました。
ここの人たちって、すぐに人を信じてくれるんだな。いい人かも。
太郎は颯太を連れて、家に入った。
太郎は、縄をほどいたのに逃げなかったこと。やはりなにも覚えていないこと。敵意はないこと。を、父ちゃんに説明して、縄をほどいても安心だと説明した。
父ちゃんは太郎の説明に納得した。
また、太郎が言うには、これから田植えが始まり、人手も必要なことから、この男を手伝わすことを提案した。
父ちゃんが納得した。
「おめぇ、一宿一飯の恩義っていうもんがあるだろ、もうすぐ田植えが始まるから、それを手伝え。いいな」
颯太は、人を縛っておいて、汚い古屋だし、それにまだなにも食べてないし、恩義って。と思いながらも首を縦に振った。
しかし、颯太の風貌のままでは目立ち、他の村人やお侍に見つかると厄介なことになりかねない。と判断して、服装は太郎のお下がりを渡して着替えさせた。靴は変わった草履だなと言われ、結局、裸足で作業することになった。
太郎のほか、三人のこどもたちの名は。二郎、三郎、四郎と続くので、二郎から下の弟
たちよりは颯太の方が年上だが、颯太は「五郎」と呼ばれることになった。
なんとも安直であります。
颯太は時代の状況がちゃんと把握できるまで、文句も言わず、言われたことだけを手伝いました。
その際、思い浮かぶ不満は、「耕運機はないのか」、「田植え機はないのか」、「腰が痛ぇ」、「足が痛ぇ」、「身体のあっちこっちが痛ぇ」、「なによりも腹が減ったぁ」、「ピザ食いてぇ」、「ナポリタン食いてぇ」、「牛丼食いてぇ」、「カレー食いてぇ」、「フライドチキン食いてぇ」「ハンバーガー食いてぇ」、「ポテトチップス、チョコレートでも良い」などと現在人そのものの欲求がわきました。
そもそもソロキャンプも好きになれない男、颯太である。用を足すにも水洗トイレはないし、シャワーを浴びることも出来ない。それを開放感が味わえるなど、とんでもない発想である。
颯太の時代と比べれば、電気そのものがなく、機械もない。食料も限られている。いや、ほとんどないないづくしの時代である。不便でも仕方がありません。あらゆる不安が颯太を取り巻いていきました。
颯太の光はひとつ。戦だ。戦さえ起これば。
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