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七 さて、家の人にも一応逃げないと信用を得た颯太は、ある日、父ちゃんに探りを入れた。 「あのぅ、今の殿様って、誰ですか?」 「おめぇ、そんなことも知らねぇのか。徳川様に決まってるだろ」 「徳川様っ?」 「将軍徳川吉宗様だ」 「えっ? ウソ? マジで?」  颯太は腰が抜けそうなくらいビックリしました。  それはそうである。望んだ戦国時代はとうの昔に過ぎ去っていたのである。 「戦国時代は? なし」  父ちゃんは慌てて颯太の口を手で押さえて、颯太を地面にねじ伏せました。 「おめぇ、物騒なことを口にするな。謀反(むほん)だと思われるだろうが」  颯太は顔をどうにか動かし、そんなことはしないと意思を伝えた。  解き放された颯太は古屋で思案を重ねました。  時代は戦国時代をとうの昔に過ぎている。  まさか江戸中期だなんて……。  武将に成り代わり天下をなんて夢のまた夢に終わってしまった。  颯太はガックリして頭を落とした。  しかしながらこの男、なかなかしぶとい男であります。めげない男であります。  古屋に連れてこられるときに、時代、年代を訊ねると、「享保15年だ」と兄ちゃんが言いました。  颯太は考えます。  だとすれば1730年頃だよな。ならば「天下飢饉」は享保17年、1732年頃に来るんだよな。  あと2年だ。  ならば、サツマイモを植えて、 「青木(あおき)昆陽(こんよう)ならぬ奥島昆陽として名を()せるっていうのも良いじゃないか」  確か、さつまいも栽培の成功は享保20年だと思う。  昆陽さん、ここは僕に譲ってください。 颯太は天に向かって願いを込めました。
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