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「……うーん」
2223年6月某日。仕事が終わり二人で夕食を食べていた時のことだった。
アンさんが豆を煮込んだスープを前に考え込んでいる。
彼女は食事のシーンにはふさわしくない、まるで探偵が真犯人を暴くかのように渋い顔をしている。
「あれ?美味しくなかった?」
「……うーん」
「冷めてた?」
「…………う~~~~ん」
「肉が固かった?」
「ううううう~~~~~~~~~ん」
僕が何かを言ってもずっと唸っている。
腕を組んで指をトントンと叩きつけながら眉根を寄せているものだから、僕はスープを自分でも食べてみた。
何種類も具材を入れたスープはしっかりと味がする。野菜の出汁を活かした家庭の味で不味くはないはずだ。スープは適温だしパンだって綺麗な焼き目がついている。
変な食感がするわけでもない。もしかして彼女のスープ皿に髪の毛でも入ってしまったのかと思い目を細めてみたけれど異物混入はなさそうだ。
「……ニンニクが、入ってる?」
するとアンさんがぼそりと呟いた。
「それと……隠し味に……何か……果物を入れてある気がする……。リンゴかなぁ……」
「……アンさん?」
彼女はそのまま続けた。料理に対する味の批評だ。
「コショウがぴりぴりするわ。塩味はちょうどいいけど、ちょっと私には辛いわ」
「……おぉ」
「甘い方が……私は好きかもしれない……」
「おぉ……!」
そしてアンさんが今まで見た中で一番かわいい笑顔を見せながら言ったのだ。
「ちょっとだけ味がする!」と。
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