僕のためにおめかし

1/1
前へ
/86ページ
次へ

僕のためにおめかし

 朝から緊張していて、思わずもう少し待つことになり、気が緩んだのか小用(しょうよう)を催した僕。  席を立つなら今だと思い、増田様と侯爵にお詫びを申し上げ、退席した。  侯爵が(かわや)(※トイレ)までの案内を、先ほどのオカメ女中に申しつけられ、僕はオカメの後ろをついて歩いた。  お見合いの席である、18畳の大広間の座敷は、南向きの奥であったために、北側の厠までは、増築されたのであろう廊下や小部屋を通ることになった。 僕は迷わないように、よく邸内を見ながら歩いた。    このどこかで、櫻子様がおめかししていらっしゃるんだな。  僕に会うために!  それを思うと、待たされることなんて、なんともない。 むしろ嬉しい気持ちだ。  北側にある厠に着いた。  他家の女中に、小用が終わるのを待ってもらうのも恥ずかしいので、戻りは大丈夫だとオカメ女中に告げ、下がってもらった。  僕は用を済ませ、さて戻ろうと厠を出た。
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

606人が本棚に入れています
本棚に追加