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青木の人脈
「それで? どうだったんだ、侯爵令嬢は」
翌日、挨拶もなしに、青木が後ろから僕の肩を叩きながら話しかけてきた。
僕は学校では青木にだけ結婚の話をしていた。
他の学友とは当たり障りのない話はするが、なんとなく踏み込んだ話ができないでいた。
その点、青木は同級の者にはもちろん、先輩後輩、先生方や、掃除などの雑務を行う爺さんにまで、よく話かけては信頼を得ているようだった。
僕は、青木が誰とでもすぐに仲良くなるのは、才能だと思っていた。
「オカメだったか?」
青木が茶化すようにニヤニヤした。
「とんでもない! 絶世の美人だった!」
僕は自慢げに、胸を張る。
むしろ、青木にも見せてやりたいくらいだ。
僕のお嫁さんになる櫻子様の美しさについて、人気者の青木にも自慢したかった。
「お顔も大変な美しさだが、お声もとてもきれいで可愛らしい方だった」
「へぇ~、お見合いの席ではお話できないのではなかったか?」
あ、しまった。
以前、母から聞いたお見合い作法についての堅苦しさを、青木に嘆いたことがあったんだった。
物覚えのいいヤツめ。
「あ、いや~、ちょっとお声を聞いたのだ」
僕はしどろもどろになってしまった。
青木は間髪入れずに聞いてくる。
「どんなお話をされたんだ?
一井、楽しみにしていたもんなぁ。
ご令嬢の、ご興味のあることなんかを聞けたのか?」
なぜか青木にはなんでも話したくなってしまうのも、青木の才の一つかもしれない。
昨日の大変だったお見合いについて、なんだか話したくなってしまい、青木に洗いざらい話してしまった。
つまり、櫻子様はお見合いを嫌がって逃げようとしていたこと、
櫻子様は名前も知らない金髪の乗馬をしていた女性に惹かれておられること、
逃げようとしたことを、秘密裡にかばったら大炊御門侯爵に気に入られたこと、
ついでに、櫻子様のお付女中がオカメだったことも話した。
青木は時々相槌を打ちながら聞き、僕の話が一通り終わるとニヤリと笑う。
「その侯爵令嬢が一目で恋におちた金髪の美女を見てみたくないか?」
青木が悪ノリする時の顔だ。
親身に聞いてくれてると思ったが、青木は美女を見たいだけかもしれないな。
「櫻子様は僕に……こ、恋をしてくださるはずだから、別に気にならない!」
「ふぅ~ん、そうか。
……本当に気にならないのか?」
ぐっ。
本当は、すごく気になる!
昨日からその櫻子様がお慕いしている相手のことを考えると、胸に杭が刺さったように、心が重くなるんだ。
僕の顔を見て、心の内をのぞいた青木は、いつもの明るい調子で、軽く誘った。
「じゃあ、俺がその美女見てみたいから、ついて来いよ」
僕はその女性がどこの誰かもわからないし、どこの馬場で櫻子様が出会ったのかわからないと話したが、青木はなんでもないといった感じで飄々としていた。
「ま、誰かが知ってるだろう」
その言葉どおり、3日後にはその金髪乗馬女性が現れるという馬場を青木は突き止めてきた。
青木の人脈はすごいな。
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