金色の王子様

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金色の王子様

 厩舎(きゅうしゃ)から離れたところに、自動車を停めたのは、少し遠めから歩いていった方が、目立たなくていいだろうと思ったからだ。  僕と青木は、馬場をぐるりと囲んでいる(さく)の周りを歩く。  そして、厩舎にたどり着く前に、その『金色(こんじき)の王子様』がよく見えそうな場所へと移動した。  柵が一段低くなっているところがあり、女学生たちが騒がしくしゃべっている。  柵が邪魔にならず、そこがよく見学できそうだ。  とても総勢6人とは思えないほど(かしま)しい(※うるさい)女子の近くに、僕たちも寄ることになってしまった。  女学校の帰りであろう、色鮮(いろあざ)やかな着物に、(はかま)姿の女子たちは、僕たちを見つけると急に静かになり、今度は不気味(ぶきみ)なほどヒソヒソと何やら話している。  うっ、なんだろう?  騒がしいのも怖いが、急に内緒話をはじめるのも怖い。  僕は青木に「もっと向こうの方に行こう」と言おうとしたが、その一瞬早く、青木が、「やぁ」と、女子たちに声をかけた。  うわっ! バカ青木! 軟派男め!  僕はただでさえ目深(まぶか)になっている学帽を、さらに鼻先の方へ下げた。 「みんなで何をしているの?」  青木は、僕とは逆に、学帽を片手で上げながら、お得意の微笑みで、女子たちに話しかけた。  すると、皆一様(みないちよう)に顔を赤らめ、髪をなでたり、お互いの腕をつついてみたりと、もじもじしだした。  そのうち、ひとりの勝気な感じの子が、青木に(しな)を作り(※色気を出して媚びるような仕草)ながら答えた。 「私たち、金色(こんじき)の王子様を見に来たんですぅ」 「へぇ……金色の王子様って?」  青木が知らないというような顔で尋ねると、もじもじしていたうちの一人が、頬を赤らめたまま指さした。 「あそこでお一人で馬術の練習をなさっている方ですっ」  僕たちはその指さされた方へ顔をむけると、白馬に乗っている金色の髪が光って見えた。  腰まで届くくらい長い金髪を、後ろで一つに編んだ髪が、馬の動きに合わせて揺れていた。  スラリと細身の体に、深い緑色のコートを羽織り、中の白い襟をチラリとのぞかせ、その長い脚には白い乗馬ズボンと、黒いブーツを履いている。  姿勢(しせい)よく白馬に(またが)っているその(さま)は、気品があり優美であった。  誰が名付けたのか、たしかに『金色(こんじき)の王子様』といった様相(ようそう)だ。  ふっ、と馬上(ばじょう)から王子様がこちらを向いた。  途端に、「キャーッ!」と女子たちから黄色い歓声があがり、僕はビックリして飛び上がった。  5(じょう)(約15メートル)ほど離れており、よく見えないが、 うーん、なるほど……たしかに美しい顔をしているようだ。    だがしかし、どの女性も櫻子様の美しさには、かなわないな。
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