630人が本棚に入れています
本棚に追加
金色の王子様
厩舎から離れたところに、自動車を停めたのは、少し遠めから歩いていった方が、目立たなくていいだろうと思ったからだ。
僕と青木は、馬場をぐるりと囲んでいる柵の周りを歩く。
そして、厩舎にたどり着く前に、その『金色の王子様』がよく見えそうな場所へと移動した。
柵が一段低くなっているところがあり、女学生たちが騒がしくしゃべっている。
柵が邪魔にならず、そこがよく見学できそうだ。
とても総勢6人とは思えないほど姦しい(※うるさい)女子の近くに、僕たちも寄ることになってしまった。
女学校の帰りであろう、色鮮やかな着物に、袴姿の女子たちは、僕たちを見つけると急に静かになり、今度は不気味なほどヒソヒソと何やら話している。
うっ、なんだろう?
騒がしいのも怖いが、急に内緒話をはじめるのも怖い。
僕は青木に「もっと向こうの方に行こう」と言おうとしたが、その一瞬早く、青木が、「やぁ」と、女子たちに声をかけた。
うわっ! バカ青木! 軟派男め!
僕はただでさえ目深になっている学帽を、さらに鼻先の方へ下げた。
「みんなで何をしているの?」
青木は、僕とは逆に、学帽を片手で上げながら、お得意の微笑みで、女子たちに話しかけた。
すると、皆一様に顔を赤らめ、髪をなでたり、お互いの腕をつついてみたりと、もじもじしだした。
そのうち、ひとりの勝気な感じの子が、青木に品を作り(※色気を出して媚びるような仕草)ながら答えた。
「私たち、金色の王子様を見に来たんですぅ」
「へぇ……金色の王子様って?」
青木が知らないというような顔で尋ねると、もじもじしていたうちの一人が、頬を赤らめたまま指さした。
「あそこでお一人で馬術の練習をなさっている方ですっ」
僕たちはその指さされた方へ顔をむけると、白馬に乗っている金色の髪が光って見えた。
腰まで届くくらい長い金髪を、後ろで一つに編んだ髪が、馬の動きに合わせて揺れていた。
スラリと細身の体に、深い緑色のコートを羽織り、中の白い襟をチラリとのぞかせ、その長い脚には白い乗馬ズボンと、黒いブーツを履いている。
姿勢よく白馬に跨っているその様は、気品があり優美であった。
誰が名付けたのか、たしかに『金色の王子様』といった様相だ。
ふっ、と馬上から王子様がこちらを向いた。
途端に、「キャーッ!」と女子たちから黄色い歓声があがり、僕はビックリして飛び上がった。
5丈(約15メートル)ほど離れており、よく見えないが、
うーん、なるほど……たしかに美しい顔をしているようだ。
だがしかし、どの女性も櫻子様の美しさには、かなわないな。
最初のコメントを投稿しよう!