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女神の笑顔
昨日、馬場で会った女学生たちからも評判だった、撫子さんの笑顔は確かに可愛らしく、短く切った金色の髪が頬の周りで輝いていた。
でも、なんだか怖い!
さっきまではあんなにツンケンとしていたのに。
このちょっとの間に何があったんだろう?
僕の横の櫻子さんは胸の前で両手を組んで、少し興奮したように歓喜した。
「まぁぁ! なんて可愛らしいの!
撫子様が微笑まれると西洋の女神さまのようですわ!」
お人形のように整った顔立ちの櫻子さんが、真正面から手放しで褒めるため、撫子さんは真っ赤になって否定した。
「わっ、私は、そんな……西洋のバケモノのような妾の娘ですからっ。
そんな、可愛らしいなどとは……」
「なんですって? そんなこと、どなたがおっしゃったのです?
撫子様は、本当にお美しいのです。
だって、ワタクシ一目で惹きつけられましたもの。
あの白馬に乗られているお姿は、西洋のおとぎ話のように華麗で素敵でしたのよ。
そう思っているのはワタクシだけではございませんのよ。
ワタクシのお友達のお知り合いも、撫子様がお美しいとのおウワサを聞いて、ご乗馬なさっている姿を見に行かれると聞きましたもの!
みなさまが、撫子様のことをお美しいと思っておいでですわ。
ご自分のことをそんな風におっしゃってはいけませんわ。
撫子様は、女神様ですっ!」
撫子さんが真っ赤になって自分のことを卑屈にいうのを、櫻子さんは途中で遮って一息に言った。
それを聞いていた僕の母は頷き、話し出す。
「そうなのです。
撫子さんはご自分が可愛らしいことをお分かりでないのです。
先ほどから、わたくし、撫子さんは可愛らしいと何度も撫子さんに申しておりますのよ。
あぁ、でもわたくしがもっと撫子さんの様子を気に掛けるべきでしたわ。主人の子はわたくしの子も同然。
ですが、孝ちゃんが父様のことを誤解したり、母親が違う妹を受け入れられるようにどう伝えていいかわからずに、ずっと隠していたから何年もわたくしはご連絡していなかったのです。
撫子さんには妾の子と言われて辛い思いをさせてしまいましたわ」
「それはチガウ。イヤなことを言われても泣かずに平気な顔をしているナデシコを、強くてスゴイって言ってたワタシがまちがっていたの。ごめんなさいナデシコ」
アメリアさんも話に入ってきて、申し訳なさそうにしている。
顔を赤くした撫子さんが小さな声で話した。
「私、これまで自分に掛けられる悪い言葉を鵜呑みにして、自分に対して卑屈に思っておりました。
そして、お父様や奥様にとって、きっと私は邪魔な者だと想像してまいりましたわ。
でも、今日奥様ときちんとお話して、本当に素晴らしいお方で……私は自分の卑屈な気持ちを改めなければと思いました」
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