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撫子さんは、僕を見上げながら言葉を続けた。
「小さな頃、男子からこの金色の髪と青い目をバケモノとからかわれて、その時の心持ちのままでこれまできてしまって……男性は少し苦手でした。
普段男性と接することなんてございませんから、昨日もどう接していいのかわからず、つっけんどんな態度になってしまいました。
……奥様がお育てになった、藤孝お兄様なら私にも必ず優しくしてくださると、先ほど奥様からお話をお聞きして……奥様がそう仰るのなら信じてみようと思っているのですわ」
なるほど、撫子さんのこの態度の急変は、母様が助言なさったからなのか。
しかし、撫子さんも辛いことが多かったのだなぁ。
僕も異性と接する機会はほとんどないが、青木から「女性はかわいい存在」だとよく聞いていたから、櫻子さんとの結婚話が出たときも、いい想像しかできなかった。
僕も女性から、ひどい言葉を受けたりしていたら、撫子さんのように女性が苦手になっていたかもなぁ。
撫子さんは、僕の妹だけあって、根がまじめで素直な人なんだろう。
僕は、今回の事実を知った時、母が一番つらい思いをしてかわいそうだと思っていたが、撫子さんも振り回されてかわいそうだ。
父がもっとアメリアさんと撫子さんに対しても深く愛情を注ぐべきだったのでは……しかしそれだと、母様が寂しい思いをなさるだろうか。
だいたい、なぜもうご結婚なさっていたのに、他の女性と子供までなすほどに関係を深められるのか!
僕はそんなことしないぞ。櫻子さん一筋でいる!
僕は『孝ちゃんが父様のことを誤解したり……』と、さっき母が言ったことを思い返し、母の懸念の通り父をなじってしまいそうだった。
まぁたぶん、実際にはそんな大それたことはできなくて、心の中で思うだけなのだろうが……。
僕の母は、過保護に僕にかまう分、僕のことをよくわかっている。
たしかに、子どものときにアメリアさんたちのことを知っていたら、受け止めきれなかったかもしれない。
そうは言っても正直、突然妹だなんて、どう接していいのかわからないけど……。
横から櫻子さんも、「優しくなさいますよね?」と言わんばかりの目で圧力をかけてくるし。
「もちろん。母は違うと言えど、僕たちは兄妹だ。仲良くしよう、撫子さん」
僕は右手を差し出し、撫子さんと握手した。
妹に対する態度はこれで合ってるのかな?
握手をする僕たちを見て、櫻子さんがぱあっと笑顔になりながら、
「藤孝様の妹さまならば、ワタクシが年は一つ下ですが、ワタクシにとってもご姉妹となるのですよね?
なんて素敵なのでしょう!
そうだわ! 今度ご一緒に甘味のアイスクリン(※アイスクリーム)を銀座に食べに参りましょう! ね、藤孝様、撫子さまとワタクシを連れて行ってくださいませね」
こ んな可愛い笑顔で言われたら、僕は「はい、もちろん喜んで!」というしかあるまい。
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