80人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
ミーンミンミンミン……。
夏休み最後の日。
いつものように、いつもの駅に降り立った私は、できていたその人だかりに、ふいに足を止めた。
「どうしたんですか」
思わずそう声をかけてしまったのは、長年この土地に住んでいるが、駅の改札を抜けたその場所で、こんなに人が立ち止まっていたことがなかったから。
「いや、それがね」
そしてこんな風に、見知らぬ人と会話を交わすのも初めての体験。
目の前に立っていたおばちゃんが、くるりと振り返って私に手をこまねいた。
「どうやら芸能人が来てるらしいのよ」
「……ほう!」
これも今までなかった経験だ。
田舎町とまでは言わないが、東京からはそれなりに離れた都道府県。
県庁所在地の中心駅にイベントで訪れることはあっても、こんな住宅地の駅に芸能人が来た試しはない。
「誰ですか?」
なので思わず、会話が続いてしまう。
人だかりを交わすように身を揺らしてみるも、向こうは全く見えなかった。
最初のコメントを投稿しよう!