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そのときに買っていたものか、それとも今日のようなことを見越して前々から用意されていたものか。
床拭き用の洗剤や消臭剤。
男は「ちょうど良かった」と言いながら、床を拭いていた。
『ようこそ事故物件へ!』
『堂々と言うなアホ』
本当は自分の家に誰かを呼ぶことは嫌いだった。
だって、あんな家だから。
自分のステータスをさらけ出しているような家だったから。
『センセ、カップラーメンしかないけど食べる?』
『……いいのか』
『うん。80円の特売のやつ~』
一緒にカップラーメン食べたときって、出会ってからわりとすぐだ。
あのねセンセ、実はあのときのカップラーメン、特売でも何でもなかったんだよ。
買い溜めしてあるなかでも高いほうで、あまり誰かに分けたくなかったやつ。
でも、それでも、たぶん、私も一緒に食べたかったんだと思う。
「…これ意味ねえわ。先にこっち止めるか」
「っ…!」
涙でぐちゃぐちゃ。
私の理解力がだんだん貧しくなっているのを良いことに好き勝手やりすぎだ。
塞がれた唇は、彼にとっては私と初めて交わすもののはずだというのに。
まるで2回目以降のような動きで。
「んっ、んん…っ」
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