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早くも梨々花たちと打ち解けている龍也を見て、良かったと茉莉花は安堵の溜息をつく。
「…吉田さん、いい人ね。あなたには勿体ないくらいだわ」
いつの間にか隣に来ていた美織が茉莉花に告げた。
「…確かに、あたしも今でもそう思う。でも、あの人があたしがいいって言ってくれたから。あたしはその期待に応えたいの」
真っ直ぐな瞳で愛おしそうに龍也を見つめる茉莉花の目を見て、美織はふっと笑う。
「…あなたが、もう一度前を向いてくれるようになって良かった…」
ぽそっと囁くような声に茉莉花は首を傾げる。
「え?」
「何でもないわ。良い人に恵まれて本当に良かったわね。幸せになるのよ、茉莉花」
「お母さん…」
「さて、私はご飯の用意するから、お父さんと奥で話してきたら?」
美織はそう言ってキッチンに向かおうとする。
「えっ、お母さん話聞かないの?」
「私はあなた達の結婚に反対はしないわ。お父さんもそのつもりだろうし。それにお父さんと話したいこともあるでしょう?」
ソファーに座って梨々花たちと談笑している父に目をやると、ふと視線がぶつかった。
「茉莉花、龍也くん。少し奥で話そうか」
にこにこと笑顔で雅隆がこちらにやって来た。
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「「お邪魔します」」
奥にある雅隆の部屋に茉莉花と龍也は招かれた。
「どうぞ。少し狭いけど、好きなところに座って」
雅隆に言われ、茉莉花たちは雅隆と向かい合わせになる場所へ座り込んだ。
「本当は家族全員で話を聞くのがいいんだろうけど、君は私と先に話をしたいだろうと思ってね」
雅隆は龍也を真っ直ぐに見る。
「…はい」
それに対して、龍也も真っ直ぐに頷く。
「…龍也くん。娘を選んでくれてありがとう」
雅隆の笑顔と言葉に、龍也は胸がぎゅっとなる。
「茉莉花は…妻に似て気が強くてね。でも、意外と泣き虫なんだ」
「ちょ、お父さん?!」
茉莉花は突然の父の言葉に焦り出す。
「知っての通り、妻が芸能人ということもあって、人の目を気にしないといけなくてね。だからこそ娘たちには普通の家族のような生活を送らせてあげることができなかったと思っている」
「そんな…!あたしはそんなこと…っ」
言葉を遮ろうとした茉莉花を、雅隆は制する。
「お前たちにはあまりわがままも言わせてあげられなかった。それは、今でも後悔している」
「お父、さん…」
「茉莉花、すまなかった。不甲斐ない父で申し訳ない」
「そんなことない!あたし、十分幸せだったよ!お父さんがいて、お母さんがいて、梨々花がいて…本当に幸せだった!」
茉莉花の訴えに、雅隆は頷きながら微笑んだ。
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