93人が本棚に入れています
本棚に追加
1.ほんの一瞬の出会いから
「あー…しんどい…!」
カウンターに突っ伏して本音を零した。
「相変わらずみたいね…。お疲れ様」
隣に座っていた親友の成瀬 藍音が、背中を摩ってくれる。
「あんのクソジジイ、また修正に文句つけやがったからやり直しだし、渡辺チャンは相変わらずだし、面倒なことばっか押し付けてくるし!もうなんなの?!会社はアンタの男漁りのためにあるんじゃねぇですから!!あとあたしは便利屋じゃねぇです!!」
一息で言いたいことをぶちまけて、グラスに残ったカクテルを一気に飲み干す。
「あ"─〜…くっそムカつく…!」
「大荒れね。ヤケで飲みすぎないでよ?」
「いや!もう今日はめいっぱい飲んでやるって決めたから!ゆーた!!おかわり!!!」
茉莉花はカウンターの向こうに立つバーテンダーに向かって空いたグラスをヒラヒラさせた。
「ったく、飲みすぎたらタチ悪くなるからやめろって言ってんのに…相変わらず人の話聞かねーのな、茉莉花は」
彼、桜坂 悠多は、茉莉花の同い年の幼なじみで、このバーを経営している。
「あん?こちとら客だぞ?店に貢献してるんだぞ?いいから黙ってさっさと酒出せや」
「ほら、そういうとこだっての!いちいち突っかかってくんな!お客は神思考やめろ!」
舌打ちしながらも、悠多は同じものを仕方なく茉莉花に差し出した。
「…っぷはー!」
茉莉花はそれを勢いよく飲み干すと、グラスを置いて机にまた突っ伏した。
「もう、茉莉花ってば。一気飲みしないでゆっくり飲みなさいよ!ぶっ倒れるわよ?」
藍音が心配そうに茉莉花の顔を覗き込む。
「ん〜…らって、飲まなきゃ…やってられないんらもん…」
呂律が回らないままぶつぶつと呟く茉莉花を見て、困ったように藍音は悠多を振り返る。
「多分そのまま寝るでしょうから、ほっといてやって下さい。酔いが醒めたら起きるでしょうし」
「…そうですね」
藍音は苦笑した後、着ていたカーディガンを茉莉花にそっと掛けた。
最初のコメントを投稿しよう!