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やがて茉莉花が静かな寝息を立て始め、藍音はグラスの残りのお酒を飲み干した。
「すみません。私、今日はここで失礼しますね。お会計、茉莉花の分も一緒にお願いします」
席を立つ藍音の言葉に、悠多が咄嗟に止める。
「え、茉莉花の分は自分で払わせれば…」
「いえ、今日は私が誘ったので。払わせて下さい」
にこっと優しく微笑まれ、悠多は頷くしか出来なかった。
「それじゃあ、ご馳走様でした。あと、茉莉花のことよろしくお願いしますね。おやすみなさい」
「いえ、こちらこそありがとうございました。おやすみなさい」
会計を終えて丁寧に頭を下げて出ていく藍音を見送った後、悠多は表に出していた看板を畳み、ドアの札を『CLOSE』に変え、看板を持って店に戻る。
茉莉花はカウンターに突っ伏してまだスヤスヤと眠っている。
(…全く、こっちの迷惑も知らないでお気楽なヤツだな)
悠多はそう思いつつ、茉莉花を起こさないように店の中の片付けを始める。
──茉莉花と悠多が出会ったのは、物心つく前から。
元々互いの親同士が幼なじみで、隣同士に住んでいたこともあり、家族ぐるみで長い付き合いがある。
そんな中で茉莉花と6つ下の妹の梨々花と悠多の三人は幼なじみであり、きょうだい同然に育った。
が。
幼なじみ歴32年目に突入した現在、茉莉花と悠多は未だに独身という共通点があるのだった…。
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