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マンションの自分の部屋のドアの鍵を開け、中に入る。
「ただいまー…」
誰の返事もない暗い静かな部屋で、茉莉花は小さく溜息をついて靴を脱いだ。
(…そういえば)
思い出して茉莉花はスーツの上着のポケットから一枚の名刺を取り出した。
吉田 龍也と書かれた名刺を見つめ、先日のことをぼんやりと思い返す。
以前、街を歩いている時に偶然ぶつかって転けそうになった茉莉花を既のところで龍也が助けてくれた。
龍也は急いでいたものの、怪我はないかと心配してくれて、もし何かあればとこの名刺を渡してくれたのだ。
龍也に言いそびれたお礼がしたいと思い、名刺に載っていた『白石カンパニー』の名前を見て、そこに現在勤めている藍音に尋ねたところ、龍也は藍音の先輩であることが判明した。
とはいえ龍也も多忙な人で、なかなか捕まえられないと藍音から今日も聞かされたのだ。
…結果、あれから何の接触もないまま今に至る。
「はぁ…いつになったら会えるの……」
このまま、お礼の一言すら言えないまま龍也とは会えないのだろうか。
せめて一目だけでもいいから、会って、あの時言えなかった『ありがとう』を言いたいのに…。
「…うん、嘆いても仕方ない!よし、お風呂入って寝よう!」
茉莉花は一人喝を入れて、夜を過ごした。
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