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引越し初日にキスを交わしたせいだろうか。
四ヶ月もしたら同棲も馴染み。私と詩恩の距離は近くなったと思う。
今日は詩恩の職場『カンタレラ』の同僚が退社するとか。その飲み会があり、帰宅が遅くなると聞かされていたけれども。
「顔を見ておやすみって言いたい」
そして詩恩のセラピストの仕事は変わらず理解していたけれども。
ちょっぴり気になって『潮音』の日記コーナーを、こそこそ見るようになっていた。
「ほら。詩恩、外と家では態度違うし。香水のお店で逆ナンされるぐらいだし」
夫の行動が気になるのは妻としての自然な行動だと思う。だからセーフだと自分に言い聞かす。
それに飲み会の事を聞いていたから、酔い覚ましにいい、ミントやレモンピールが入ったハーブティーを用意していた。
「これは良い妻の行いだから、迷惑なんかじゃないはず」
一人、建前を口に出してリビングで雑誌を読みながら詩恩を待つ。
時計を見ると23時過ぎ。そろそろ帰ってくるんだと思うとそわそわする。
「飲み過ぎていたりしないかしら」
ふと、溢れた言葉がまるで本当の夫婦みたいとだと思った。
セックスをしないのは相変わらずだったが、添い寝をしたり。時折キスをしたり。
夫と妻という関係より、恋人と言う程には少しむず痒い。
なんだか補完しあっているような。
そんな関係に安らぎを覚えていた。
セックスをしない限りあんな言葉を言われることはない。
「セックスで繋がらなくても私達ちゃんと。ちゃんと──」
その時、ガチャっと扉が開く音がした。
そしてドンっとか、バンとか。何かぶつかる音もした。
「!」
その音にちょっとびっくりする。
本当に酔って帰ってきたのだろうか。慌てて玄関に行くと詩恩がバッタリと鞄を投げ出し、廊下に突っ伏していた。
「詩恩? だ、大丈夫? そんなところでに寝ちゃうとスーツシワになっちゃう」
そっと近寄り、詩恩の顔をみると目は少し赤く充血していて、さらさらの黒髪からは煙草とお酒の香りがした。
「う、ん……ゆーり。水、ちょうだい」
「わかった」
これはハーブティーを一緒に飲む余裕はなさそうだと台所に走り、ミネラルウォーターのペットボトルを冷蔵庫から取り出して、直ぐに詩恩の元に戻る。
「はい、お水」
「ありがと」
少しだけ上体を起こして水をゴクゴクと飲む詩恩。
上下に動く喉仏が場違いだけど、ちょっとセクシーだなとか思ってしまった。
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