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喫茶店を出た二人は、近くの大きな自然公園へ移動した。空いていた二人がけのベンチに座りゆったりとした時間を過ごしている。
この公園はペットの散歩、ランニングしている人やスポーツの自主練習をする人が多く利用している。春ということもあってかお花見をしている人たちも見かけた。レジャーシートを敷いた上で大人たちが集まりワイワイと賑やかに過ごしている。
「悠陽、どうしたの?」
「あそこ、お花見してる人たちがいるなって」
「本当だ。今日は晴れてたからお花見日和だ」
桜が風に揺られ花弁を散らしている。ヒラヒラと地面へ落ちていく花弁を目で追いかける。近くでは子どもたちが花弁を追いかけ遊んでいた。
「お花見なんてしたことないや」
「そうなんだ。俺もちゃんと公園に来てしたことは無いな」
「公園以外でならしたってこと?」
「……俺、兄弟多くて。実家の庭で花見っぽいことを毎年してたなと」
颯太は少しドギマギとしながら話している。家族についての話をしているから照れているのだろうと思った悠陽は、つい口角を緩ませる。思春期の男の子を見ているようで可愛いと感じた。それと共に颯太の弱点をしれたようで嬉しくもあった。
「兄弟羨ましいな」
「そう? うるさいだけ。よりによって男しかいないから」
「何人兄弟なの?」
「七人」
想像よりも多い数字が出てきたことに驚いてしまい、すぐに言葉が出なかった。ひとりっ子の悠陽からは信じられないような数字だった。
「ビックリした? そりゃするよね。ちなみに俺は三番目」
「そ、そうなんだ……お兄さんもいて弟さんもいてすごいね。俺はひとりだから羨ましく感じるな」
「……今度、実家来る?」
そう聞かれた悠陽は颯太と目を合わせて数秒後に頷いた。実家に行き、颯太の両親やたくさんの兄弟と顔を合わせると考えると想像だけで緊張してしまう。自分はなんて紹介をされてしまうのだろうと今から気が気では無い。
「実家にみんなが集まる時に俺らも行けば会えるよ。兄さんたちは俺と一緒で実家出てるからさ」
「なんだかドキドキする」
「そう? 全員俺みたいな顔と性格だから大丈夫……あー、でもそれだと悠陽に惚れるかもな」
颯太は至って真剣にそう話している。悠陽はそんなことはないだろうと思いつつも颯太が七人いる想像をしてついフフ、と笑みがこぼれる。皆、最初はつんつんとしていたり表情が分かりにくかったり、それなのに言葉はストレートなのだろう。完全に颯太の分身のような存在をイメージしていた。
「何笑ってるの」
「颯太がたくさんいるところ想像してたらシュールで」
「何それ。まぁ、あくまでも似てるってだけだから」
「うん。そうだね。颯太は颯太だよ」
「当たり前。でも本当にみんな喜ぶと思うから。俺は人付き合いが下手で友だち少なかったし、家に人を招いたこと無かったし」
颯太は表情を変えずにそう話続ける。颯太には時々自分と重なる部分が感じられる。きっと人付き合いが下手だったのでは無く、ダイナミクスのせいで避けていたのだろう。そのうちに人付き合い自体が下手なのだと思い込んでいるだけだろう。
(俺は外面よく生きてきたけど、人付き合いは好きでは無いし。上手く馴染んで生きようとしていたから何とかなったけど、颯太のように人を避けて生きていたっておかしくはなかったはず)
悠陽は颯太の手を取りギュッと握りしめた。颯太も握り返すと、目を合わせて嬉しそうに目を細めた。
「颯太はありのままで愛されるような性格している。それこそサークルに顔を出したりすれば友だちは簡単に出来ると思う」
「……俺に友だち作って欲しいの?」
「同年代の友人がいた方がきっと楽しいと思うから」
颯太は少し沈黙した後に目を逸らした。手は繋いだままだったが、颯太の握る力が弱くなる。
「俺は、アンタだけでいいんだけど」
そう言われると悠陽は恥ずかしくなり何も言い返せなくなる。颯太の言葉は心臓に悪い。再び手をギュッと握る力が強まると、悠陽も応えるように力を入れた。
「そんなこと言ったって、俺はひとつ上なんだからいざと言う時に……」
「……まぁ。確かにそうなんだろうけど。俺は悠陽みたいには出来ないから」
「颯太の雰囲気が心地よいと感じる人だっているよ。みんな性格はバラバラなんだから」
「そう? 友だちなんて作る気無かったけど、悠陽がそこまで言うなら考えてみる。それと逐一報告するから安心してね。俺は悠陽しか愛せないから」
「そ、そんなことしなくていい」
そんなことをしたら、俺が束縛をしているみたいじゃないか。
悠陽はそう思いながら大袈裟に両手を振りながら拒否をする。それに対して颯太は不満げに唇を少し尖らせ小さくため息をつく。颯太の発言はどこまでが本気なのかがわからない。颯太のことだから全て本気な可能性もなくは無かった。
(颯太のことは大切だけれど、俺がそこまで知る権利は無いと思う)
それに悠陽は颯太を信じていた。
あまりにも真っ直ぐに思いを伝えられるものだから、颯太は本当に自分以外に簡単には目移りをしなさそうだ。そういう風に思えるくらいには信頼を置いている。それは悠陽自身も同様、颯太以外に特別な思いを寄せることは出来そうにはなかった。
「……俺は悠陽の何もかもを知りたいのに」
「え?」
「いや、別に」
颯太が小声でボソッと呟いた言葉を悠陽は聞き逃した。別に、と言われたためそれ以上聞き返すことはなかった。特別気にもとめなかったが、颯太は悠陽をじっと見つめると、再び小さなため息を漏らす。
「颯太?」
「いずれは同棲して四六時中を共に過したい、何をする時も常に一緒がいい。そう言った」
「なっ……え……」
颯太は悠陽の目を真っ直ぐ見つめながら真剣に話す。それを聞いた悠陽は頬を赤らめる。二人が見つめ合う間にひらりと一枚の花弁が通り過ぎて落ちていく。
「今の悠陽の顔も桜みたいなピンク色になってる」
「颯太が変な事言うから」
「変な事は何も言ってない。俺は本当の気持ちを伝えただけ。悠陽からしたら変な事なの?」
「変なっていうのはそういう意味では無くて……。でも、そんなことばかり言われてたら心臓がもたないから」
「俺にドキドキさせられてるの? 悠陽、可愛い……。でもあまり俺を困らせないで。今すぐ連れて帰りたくなるから。連れて帰ったらベッドまで直行して、抱きしめてキスをして頭を撫でて……」
「わ、わかったから!」
そう言いながら颯太は徐々に顔を近づけてきていた。外では流石に密着するのは恥ずかしいと悠陽は顔を背けて繋いでいた手を離した。けれど、颯太が直ぐに手を取り繋ぎ直す。指と指を絡め合い恋人繋ぎをすると、ガッチリと握られる。今度は簡単に離れそうにはなかった。
「本気だけど。忘れないで?俺がそうしたいって常日頃考えてることを」
「言われなくても、忘れられそうには無い」
「……いい子、悠陽はもう俺の悠陽だから。誰にもとられたくない。渡さない。絶対に離さない。俺から離れないで」
颯太はそう言うと悠陽を抱きしめた。相変わらず人目を気にしない颯太にたじたじになりながらも、悠陽は抱き締め返した。
(颯太は寂しがりなのかな。甘えん坊なのかな。俺の事をすごく思って貰えるのは嬉しいけれど、少し過激な発言が気になる)
颯太は本気だと言っていたが、悠陽の中では半分くらいはきっと大袈裟に言っているのだろうと思っていた。そのくらい好きだと伝えるために大袈裟にしているのだろう、と。
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