私は蝶になりたい

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友達もできず学校には馴染めない。 頼りの綱だったスキルもほしいものは得られなかった。 美容学校へ入ったことを後悔しかけていた頃に突如降って湧いたような来人からの言葉。 「どうなんだ?」 来人は更に顔を近付け尋ねてくる。 ほとんどどころか今日まで全く話したことのなかった相手。 ―――・・・どうして来人くんはここまで私にしてくれるんだろう。 ―――でもこれが最初で最後のチャンスなのかもしれない。 ―――私は今まで怖くて大きな一歩を踏み出せなかった。 ―――でも一人じゃなくて来人くんとなら。 ―――・・・このチャンスをものにしたい! もしかしたら何か騙されているのかもしれない。 それでも他に希望なんてないと思い力強く頷いた。 「・・・私、変わりたい」 一依の決意した顔を見てか来人は嬉しそうに笑った。 「よしッ! そうこなくっちゃ」 そう言うと来人は一歩後ろへ下がり、そのまま一依の全身を上から下までくまなく観察し始めた。 「えっと・・・」 「即効性があって、目立って変化があるものと言えばまずは服装だ。 いつも川原はこういう服を着るのか?」 「あ、うん・・・」 「スカートとかは履かないのか?」 「履かない、かな・・・。 というよりスカート自体持っていないかも・・・」 一依は常に下はジーンズで上もシンプルな無地のものを着ることが多い。 それに加え自分に自信がないため大きめの服を選ぶことを好んだ。 それが似合うならファッションになるが残念なことに一依には似合っていなかった。 「こういう紺色とかじゃなくて明るい色の服は?」 「それもあまり買わないかな・・・。 私には明るい色が似合わなくて」 「そうか? 別に紺色が滅茶苦茶似合っているわけじゃないし、ただ無難なところに逃げているだけなんじゃねーの? 見た感じ川原はスタイルがいいわけだし」 「・・・え?」 「見ていると俯いていることも多いよな? もっと自分に自信を持つこと。 心の持ちよう、っていうのは見た目にも影響出るんだぜ? ちなみに川原は身長何㎝?」 「162だけど・・・」 「丁度いいな」 そう呟くと来人はスマートフォンを取り出し操作をし始めた。 しばらくその様子を見てからおどおどと尋ねかける。 「・・・あの、私は何をしたら」 「もう授業が始まる。 とりあえず次の休み時間からだ」 そう言って来人は一依を教室へ入るよう促した。 「楽しみにしておけよ」 緊張と不安が混ざり合いながらも何とか授業を終えることができた。 「来人くん・・・。 あれ?」 席を立って来人の席を見るとそこには誰もいなかった。 どうしたらいいのか分からず困っていると廊下から声がかかる。 「川原ー。 来いよ」 来人は何か紙袋のようなものを持っていた。 呼ばれてすぐに彼のもとへと駆け付ける。 「はい、これ。 更衣室へ行って着替えてこい」 手渡してきた紙袋にはどうやら服が入っている。 「これは?」 「服だよ。 もらいものだけど」 ―――さっきスマホを操作していたからそれかな? ―――簡単にもらえるっていうことは妹さんとか・・・? 受け取りいきなりのことに驚きつつも更衣室へと向かった。 来人は気を遣ってなのか更衣室から離れたところで待機している。 折角受け取ったもののため着替えることにした。 のだが、実際にもらった服を見て驚くことになる。 「何これ・・・ッ!」 紙袋に入っていたものはあまりにも今まで着てきた服とは違うものだった。 ―――無理無理無理、こんなのッ!! ―――私には似合わなさ過ぎる・・・ッ! 膝よりも短く淡い黄色のワンピースに薄く花の絵が描かれており春や夏にピッタリの服。 生地もヒラヒラしていて肩や胸元の露出が多めだ。 もしこれが一依一人だったら着ることはなかっただろう。 許されるならずっとジャージを着ていたい。 だが美容学校に通う手前そうもいかない。 それが一依の考え方である。 ただ今の一依は来人にプロデュースされている立場で、着ないわけにはいかなかった。 恐る恐る服を脱ぎ袖を通す。 他に更衣室の利用者がいなかったのが幸いだった。 ―――こんなにも脚が出ているし凄くスース―もするし落ち着かない・・・。 鏡はあるがそれを見てみる勇気はなかった。 なかなか更衣室から出る勇気が出ずしばらくは留まっていた。 次第に来人を待たせている罪悪感が勝り更衣室を出る覚悟を決める。 「来人、くん・・・」 こっそり顔だけを廊下へ覗かせた。 それに気付いた来人は手招きしてくる。 勇気を出し廊下へ一歩踏み出した。 「ッ・・・」 ワンピースを着た一依を見て来人は驚いた表情をして固まっていた。 言葉を失っている来人を見て更に一依は凹んでいく。 「・・・ごめん。 私の服に着替えてくる」 引き返そうとした一依の腕を来人は捕まえた。 「待てよ。 そのままでいろって」 「でも」 「めっちゃ似合ってんじゃん」 「え・・・?」 「思っていた通り、やっぱりスタイル滅茶苦茶いいな」 そう言って笑う来人はお世辞で言っているようには思えなかった。 「・・・ありがとう。 でも着替えてきちゃ駄目?」 「駄目。 もうその服は川原のものだ。 だから自由にしていいと言いたいところだけど川原は変わりたいんだろ?」 「そうだけど・・・」 「つか着替えてから出てくるのが遅過ぎ。 もう次の授業が始まっちまうよ」 スマートフォンで時刻を見ながら来人はそう言った。 「次の変身はまた休み時間になってからだな。 よし、教室へ戻るぞ」 「・・・」 「・・・川原? どうした?」 「この服、薄くて少し肌寒くて」 素直にそう言うと来人はしばらく一依を見据え黙っていた。 そして来人は自分が着ている上着を脱ぎ渡す。 「分かった。 じゃあこれでも羽織っていろ」 手渡されたそれからは柔軟剤なのかほんのり香る花の匂いがした。 「でも」 「着ている服には全ッ然似合わないけどな。 とはいえ風邪を引かれてもマズいし、多分いきなりっていうことで順応していないこともあるだろうから」 そう言うと来人は教室へと戻っていった。 上着には来人の温もりが残っている。 それが次第に心を落ち着かせ一依も教室へ戻ることにした。 「・・・え? 誰あれ? って、一依じゃん!?」 「急にどうしちゃったの? あんなに可愛い服を着ちゃって」 「似合わないよね。 服が可哀想」 教室へ入ると飛び交う心無い言葉に悔しくて自然と拳に力が入る。 「てかさ、あの上着って来人くんのじゃない?」 「本当だ! さっきまで来人くんが羽織っていたよね。 なのにどうしてアイツが来人くんのものを羽織ってんの?」 来人は聞こえぬフリをしているのか何も反応せず自分の席へ着こうとしている。 だが一依の心はデリケートで心に刺さりまくっていた。 そして気付いた時には来人の上着を剝ぎ取っていた。 「こ、これ返す!!」 「は? おい!」 前にいる来人に無理矢理上着を返し一依は席に着いた。 温もりがなくなり肌寒くなって鳥肌が立っている。 それで居ても立っても居られず心無い声に怯え震える身体を一依は両腕で抱き締めた。 その時爪が腕に食い込んだが身体の痛さなんて心の痛さに比べればないも同然だった。
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