私は蝶になりたい

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―――・・・え? 突然の出来事に思考が停止する。 すると水がかかってきた方向ではなく後ろから声が聞こえてきた。 「自業自得よねー。 今日のアンタは調子に乗り過ぎだから」 「・・・小巻さん」 小巻がトイレに入って姿を見せると彼女の取り巻きの女子二人もトイレの個室から出てきた。 個室で待ち構えていたらしく水の滴るバケツを持っている。 「・・・って、アンタ何その髪? 服だけじゃなく髪までもイメチェンしたの?」 「・・・」 「それなら早く言ってよー。 頭の上から水を被せればよかったぁ。 でもー、全然似合っていないし別にいっか」 水は横から服に向かってかけられた。 多少水は散ったが先程セットしてくれた髪型が崩れるには至っておらずそれだけは幸いだった。 「ねぇ、その髪は誰がやってくれたの? アンタなんかにそんな髪似合うわけないのにセンスなさ過ぎ」 「・・・」 ―――関係のない先輩までも巻き込みたくない。 ―――それにこの髪型を選んでくれたのは来人くんなのに。 そう思って黙り込んだ。 来人が選んだ髪型だなんて言ったら小巻は余計に怒るだろう。 「・・・どうしてこんなことをするの?」 「アタシが言いたいことはただ一つ。 アンタ、来人くんをどうするつもり?」 「え? どうって・・・」 どうするつもりもなかったため思わず聞き返してしまった。 「来人くんがアンタをコーディネートなんて有り得ない。 どうせアンタが来人くんに無理矢理『可愛くしてほしい』とか無茶な頼み事を言って困らせているんでしょ?」 「・・・」 「来人くん、本当に可哀想。 無茶なことを頼まれたのにやってあげるとか優し過ぎよ。 次、来人くんを困らせたらどうなるのか分かっているわよね?」 「・・・どうしてそんなに来人くんのことを気にかけるの?」 恐る恐る尋ねると小巻の顔は見る見るうちに赤くなっていった。 それを見た取り巻きの女子が口を挟む。 「アンタ、分からないの!? 小巻はね、来人くんのことが好きなのよ!!」 「そう! だからこれ以上来人くんに付き纏わないでくれる!? アンタと来人くんは全ッ然釣り合っていないんだから!!」 ―――そういうこと・・・。 今までは口だけだったのに今日は服を濡らすという暴力にまで表してきた。 それに違和感を持っていたが来人の恋事情を聞いて納得する。 恋愛事とはまるで無縁だった一依には分からなかった。 「・・・別に私と来人くんには何もないから。 小巻さんの言った通り、ただメイクアップを頼んだだけ」 「・・・ッ!」 「私は来人くんを狙っていない。 だから来人くんは譲るし好きにすればいいよ」 そう言うと小巻は更に顔を赤くし怒気が混ざった状態で顔を近付けてきた。 「・・・アンタ、何様のつもり? 来人くんを譲るって、まるでアンタのものみたいじゃない!!」 「ごめん、そういうつもりはなかった。 ・・・私には他に好きな人がいるから」 そう言うと小巻の身体が強張った気がした。 その瞬間授業開始のチャイムが鳴る。 それを聞くと小巻は何も言わずに一依を睨むだけ睨んで出ていった。 「あ、待ってよ小巻!」 それを見て取り巻きの二人も慌てて出ていく。 「本当にデリカシーなさ過ぎ。 小巻の気持ちも考えなよ!」 「小巻、アイツの言うことなんて気にしなくていいからね? アイツよりも小巻の方が何百倍も可愛いんだから!!」 わざと一依に聞こえるよう大きな声で言う彼女たち。 ―――・・・言い過ぎちゃったかな。 普通に思ったことを言っただけのためもう少し言葉を選べばよかったと後悔した。 ―――・・・来人くんからもらった服が濡れちゃった。 ―――この状態だと教室へ戻れないし、どうしよう。 かといってトイレに留まっているわけにもいかない。 床は濡れており、ここにいると小巻たちのことを思い出してしまうのだ。 「・・・服が乾きやすいところへ移動しよう」 そう思いトイレから出た。 歩き始めると教室へ戻ろうとする学生とすれ違う。 「あれ? あんな子いたっけ? 何か凄い服が濡れているけど」 「もしかしてアイツ、川原じゃね?」 「マジで!? 人ってあんなに変われるもん!?」 女子だけでなく見た目がガラリと変わったからか、男子からも注目されるようになった。 女子とは違い男子からの評判は素直に少しよくなっているように思えた。 だがやはり目立つのは苦手なため一依は誰の声も届かないところを目指して走り始めた。
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