あの角を曲がって

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由希子さんの同級生だった人、行きつけのスーパーの店員さん、保護者として面談したことのあるあたしの小学校の担任。 会いに行って話を聞いては「写真とかあったら見せてほしい」とお願いした。でも、すごい遠めのぼけたものとか、大勢の集合写真のちっこいやつとか、そんなのしか見られなかった。 相変わらず、由希子さんとあたしの思い出は見つからない。 「由希子さん、お会計はどんぶり勘定だったわねえ」 そんな話が聞けたとき、ちょっとドキッとした。思い出したからでなく、あたしもそうだったからだ。 「テキトーなのよ。大体こんなもんか、ってお金出しちゃっておしまい」 まあこういうことは血筋とか親子だからとかは関係ないんだろう。数字の細かい計算がめんどくさいので、それでいいや、となってしまうのだ――いけないよねえ……と、苦笑いになった。 「笑うようになったね」 球団のお抱えトレーナーとして、年の半分は日本のあちこちを飛び回るようになった平沢さん。戻ってくると必ず最優先で会ってくれる。 苦笑いじゃなく、もう普通にも笑えるよ、と言う前に、こないだの失敗を思い出していた。 お菓子の材料を買い込んだとき、大体このくらいで足りるだろ、とお札を出した。おつりをつかんで確かめもせずさっさと帰ってきた。それが、千円のつもりが一万円札で、間違いに気づいた店員さんが追っかけてきてくれた……。 どんぶり勘定、というより、もはや壊滅的な財布管理力。 「ダメだよねえ、ざっくりで」 もう一回笑ったら、平沢さんは真面目な顔をした。 「家計は2人で管理したいから、お金の計算は頑張ろう」 そう言った。 ――これってもしや? 何か、どさくさまぎれな感じがするけど、あたしは「うん」とうなずいた。
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