あの角を曲がって

9/10
前へ
/10ページ
次へ
「遥ちゃんの笑い方、変わってますね」 幼稚園の先生に、笑いながら言われた。そうかな?  「とっても楽しそうで、みんなにも移っちゃってるんですよ」 うん? 大笑い、嬉しそうな笑い、ちょっと悪だくみっぽい笑い。いろいろあるけど。どの笑い方のことを言ってるんだろうか?  今日はダンナと一緒に遥をお迎えに行った。たまにしかないこういう日は、3人でファミレスのドリンクバーを飲んで帰る。 遥は年に似合わず紅茶が好きだ。いや、紅茶が好きと言うより。 ミルクの上蓋をぷっちんと開き、カップにそーっと垂らす。そして混ぜずにその模様が広がっていく様を見るのが好きなのだ。 「わあ、今日は乙姫様のはごろもみたい~!」 そうして咳をするかのように拳を顎に乗せ、「ひゃひょひょひょよ!」と笑った。 聞き慣れてて思いもしなかったけど。これのことかな、変わってる笑い方って――あれ……? ずいぶん前に、知り合いのおばちゃんたちが言い方を悩んでいた「由希子さんの変な笑い方」って。 なわけないよね。だって、遥は血もつながってないし、見たことがあるわけじゃなし。 そうして家へ帰り着くと、そうだ、荷物が届いていたんだった。開けてみれば、お祖母ちゃんから遥への、戦隊人形。 「わあい!」 が、遥が反応したのは人形より先に、それを覆っていた包装のプチプチだった。それを広げ、その上で指を動かして歌い出す。 ダンナが吹き出した。 「キミ、そっくり」 「え?」 確かにピアノを習い出したとき、あたしはそうやってエアピアノで練習してたけど。 「そんなの、遥が生まれる前のこと……」 「何言ってるの? 今でも時々やってるよ」 「え?」 「エアピアノも。ああいう変わった笑い方も。模様を見たくて紅茶にそっとミルクを淹れるところも。全部キミにそっくり。伝わるものだね」 えええ!? あたし? あたしがそんなことを? 無自覚だった。 振り返ると、遥はすでに戦隊人形を組み立てるのに夢中になっていた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加