喫茶インフォメーション

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「お父さん!」 「麻耶!よかった」  私は椅子から立ち上がり、お父さんの側に駆け寄ると、お父さんは歩美さんに向かって頭を下げた。 「すみません。ご迷惑をおかけしました」  私もお父さんの隣で頭を下げて顔を上げると、歩美さんだけでなく、喫茶店ごと消えていた。代わりにインフォメーションカウンターだけ残っていた。私達は、その前で頭を下げていたのだ。  不思議な店で起こった出来事は、実は昔、お父さんも道に迷ったときに体験したという。  私の口の中にはまだ、歩美さんが淹れてくれたコーヒーの味が残っていた。 ***** 「もう、佐藤さん。急に消えるのはやめましょうよ」  佐藤さんと呼ばれた人は、至って普通のおじいさんだ。尻尾が出ていることを除けば。  その尻尾を揺らしながらおじいさんは笑う。 「いいだろ?迷い人に休める場を作りたいと願い出たのは、歩美じゃないか。わしはあんたの願いを叶えている。消す消さないはわしの自由じゃ」  この二人、麻耶と話していた歩美と、お客さんのおじいさんだ。さっきまでの関西弁はどこへやら。標準語のまま、二人の会話は続く。 「そうですけど・・・。あ〜あ。もうちょっと、麻耶ちゃんとお話したかったな〜」  急におじいさんは後ろを振り向く。 「ほれ、また迷い人のにおいがする。歩美、出番じゃ」 「はいはい。じゃあ、行ってきます」  謎多きその喫茶店は、道に迷った人達が息抜きできる場所を提供する、温かい店だ。 〜完〜
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