桜島ケイのファーストデート

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 結果から言うと、彼女との会話はわずか30分ほどで終了した。  僕は僕ができる精一杯のコミュニケーション能力を駆使して、会話をしたと思う。 いや、どうだろう。 正直、空回りしすぎて、会話の内容をあまり覚えていない。 少なくとも、彼女が「そろそろ戻ります」と言った時、僕の顔には安堵の表情が浮かんでいたかもしれない。 「それじゃ、また」 僕がそう言って手を振ると、彼女は「また」と微笑んで背を向けた。 ** 「少しのスパイスでいいから」と言っていた彼女にとって、僕はどれ程の薄味だったのだろうか。 もはや老人食を超えて、犬や猫の餌レベルだったのかもしれない。  翌日アプリを起動してみると「ごめんなさい、ありがとうございました」という定型文と「マッチングは終了しました」という表示が浮かんでいた。 タップして既読にすると、画面が切り替わる。 『新しいマッチングを開始しますか?』という文字が「お前は会話すらもできないのか?」に見えてきた。  僕は「はい」をタップする人差し指を止めた。 「もう終わりか?」 止まった人差し指が僕に話しかける。 「もう満足か?」 僕は、全ての指を折り曲げ拳を握った。 「もう諦めるのか?」 見えない指から尚も声が聞こえてきた。 「……今日は、やめとく」 答えた僕の声は、とても掠れていた。 【桜島ケイのファーストデート 本の蛙】
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