もう恋なんかしない

2/3
前へ
/25ページ
次へ
   果たしてVRゴーグルから見た世界は、青々とした芝生が広がる公園だった。 リアル時間では午後8時だというのに、青空の中、雲がゆっくりと流れていて、白いベンチの前には銀に輝くイルカのオブジェが、ピンク色の水を宙に吐き出していた。 しかも視界全体にうっすら虹がかかってる。 なに、この世界。 ……うっかり癒されちゃったんだけど。 「あああ、ダメよ。ここは戦場なの。食うか食われるかだわ!」 CGの顔をパンパンと叩いて、気合を入れ直す。っていうか、相手の男はどこにいるのよ? あたしは公園を見渡しながら、ウロウロと彷徨った。 人っこひとり、いやしない。 まさか、、、フラれたんじゃないでしょうね? 「はは、マジで?」 あたしは力なくベンチに腰を落とした。 誰かを傷つけようと考える人間は、必ずその報いを受ける。 結局あたしは、自分で自分を不幸にしたのね。 あいつと別れた理由だって、会うたびに愚痴ばっか零してたもんね。 そりゃ、嫌になるはずよ。 「もういいや、帰ろ」 あたしが重い体を持ち上げた時だった。 突然ボワッと音がして、すぐ近くに男が現れた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加