鈍感な男

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 デート当日。植物館の中にあったベンチで私はチューリップを持っていた。それが目印になると指示されたので、色は安易だが彼女の気を引きたくてピンクにした。 「雲海さん?」  声をかけてきたのは、今時の若い二十代ぐらいの女性だった。派手だが下品ではなくまとまっている。 「えっと……」  彼女のプロフィールを見忘れてしまった。どのボタンを押せばいいのか、解らずに怖くて触ってなかったがこれは失礼だ。 「雲海さんさぁ、初心者だよね?」 「ああ。こういうのは初めてだね。君は?」 「まずプロフィール見て。その方が早いでしょ」  彼女に言われて慌ててプロフィールの見方を教えて貰い閲覧した。  二十二歳、独身、淡谷(あわや)仁美(ひとみ)。ハンドメイド作家。  若いのにしっかりしてそうだ。それにしても二十八も離れたおじさんとマッチングされてしまうなんて、年上が好みなのか? 「チューリップ、何でピンクなの?」 「え、いやぁ、単純に若い女性ならピンクかなと思って」  自分の浅はかな考えを見透かされたようで恥ずかしくなる。 「私は黄色が好き。たんぽぽとかも好きなんだ」  確かに黄色は彼女にとても似合う気がした。 「でも雲海さんがピンクのチューリップ持ってるの面白い。似合ってるよ」 「こら、大人をからかうんじゃない」 「ギャップっていうのかな。可愛いよ、本当に」  彼女は嘘をついている様子はなく、優しい笑顔で私の手を握ると歩き始めた。 「植物に詳しいわけじゃないんだけどね、アンケートに好きな物ってあったでしょ?それにたんぽぽって書いたら、植物園になってた。雲海さんもお花好きなの?」 「私は花というより、観葉植物が好きなんだ。毎日水やりが日課って書いたかな」  ペットも飼っていない私の唯一の楽しみは観葉植物との会話だ。  それは他人から見たら滑稽な物でしかない。だけど、一人の時にあの子達と話すのは私にとって楽しい時間だった。  それから植物園を巡りながら、何でもない話をしながら彼女の明るい人柄に惹かれていく。しかし、年齢が離れすぎていてきっと二度目はないだろう。 「雲海さん、またデートしよ」 「君は…その、私でいいのかい?」 「こんな優良物件逃す女はいないわ。他の人に取られたくないもん」  彼女の言葉にぐっと来た。何て素直で可愛い子なんだと。断る理由がどこにある。  もちろん、次のデートを約束をした。
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