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両親が亡くなり、私は年齢のせいか、体調を崩すようになったので仕事はリモートでしていた。会社は息子に継がせたいが、まだ子供だ。だから現在右腕として働いてくれている、将門にほとんど任せている。彼は仕事が早く丁寧で信頼できる。まだ三十代後半なのに将来は自分の会社を持つことも彼ならできるだろう。
将門は仁美の両親が再婚して兄妹になって義理の兄だ。仁美とも十五ほど年が離れている。紹介されたのは結婚する前に信頼していた先輩が急死してしまい、仕事が忙しくなった時に将門が転職を考えていると聞いて誘ったのだ。
先輩も働き者だったが、将門も負けてはいない。わからないことが出てきたら、わかるまで調べて会社のことは全て把握できるまで頑張っていた。義理の兄ということを除いてもこれだけできる人材ならどこの会社でもやっていけただろうから誘ってよかった。
兄妹の仲はよく、将門は休みになると私の家に来ていることが多かった。私は義理の兄妹でも慕い合うなんて素晴らしい関係だと思っていた。
仁美と結婚して七年目。私は死んだ。死因はカフェイン中毒。
馬鹿な。私は朝にコーヒーを一杯飲むだけなのに。
「ほら、あの子よ」
近所の人が息子を指してこそこそ噂している。
「本当は奥さんと一緒にいる男性との子供なんでしょ」
え?
「旦那のいない間に何食わぬ顔で雲海さんの家に入り浸ってたわよね」
「顔だってそっくりじゃない」
涙を流す仁美の肩を抱くのは将門。その反対の手には我が子の手が握られている。
その手は家族を守る男の手だった。私の息子が将門に笑いかける。
「知らないのは雲海さんだけよ。だから鈍感って言われるのよねぇ」
近所の人の笑い声が。仁美の嬉し涙が。
そういえば私は彼女と行為するとき、スキンを必ずしていたことに今、気がついた。
可能性はゼロではない。だが、息子は私にまるで似ていなかった。
つり目で鼻が低く、天然パーマ。
身近な人間で天然パーマがいるのは血縁関係のない将門ぐらいだ。
「どこが好きだったか?そんなの鈍感なところよ。最高の長所じゃない」
彼女が息子だった子供の問いかけに見たことのない美しい笑みを浮かべた。
終
【鈍感な男】 チキンカツ
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