桜島ケイ、アイドルに会う

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桜島ケイ、アイドルに会う

 マッチング相手が見つかったと、スマホにメッセージが届いたのは、前回フラれてから3日後のことだった。  僕の都合が良ければ、今夜8時に仮想空間でファーストデートを行う。  僕は「OK」をタップし、早めの夕飯を取った。  今回は、前もって話す内容を決めておいた。  同じ轍は踏まないぞと、気合をいれたりして。  我ながら、単純だなと思う。  果たして、僕は部屋の中央に立ちVRゴーグルを身に着けた。 **  そこは、ライブハウスを思わせるような場所だった。  思わせるというのは、ライブハウスという場所に行ったことがないから、確信が持てないという意味でだ。  一見すると倉庫のようにも見えるが、正面にステージと思われるひな壇のようなスペースがある。  その中央にはスタンドマイクが寂しそうにポツンと立っている。  僕がポカンとステージを眺めていると、右側から静かに人が現れた。 「こんばんは」 「あ、こ、んばんは?」  呆気に取られている僕に対して、その人は(声からして女性だということはわかるが、いかんせん薄暗い)マイクの正面に立つと、いきなり 「聴いてください、$%#$$」  と、曲名らしき言葉を発したが、全く聞き取れなかった。刹那、派手な音楽が左右の耳に響いた。  バンド? ヒップポップ? を思わせるノリのいい曲だったけど、僕は聞いたことがない。  もともと最新の音楽には疎いから、もしかしたら巷では人気の曲なのかもしれない。  彼女がバック音楽に合わせて歌い始めると、僕の背後から赤や青や黄色のライトが、歌の調子に合わせてくるくると踊った。  スポットライトに照らされた彼女は、キラキラと光って見えた。  その姿は、CGで作られた完璧ともいえる「アイドル」だ。  歌唱力や振り付けも、僕が時々テレビで見かけるようなアイドルの女の子となんら変わらなかった。  つまりこの場にいる僕は、彼女の観客でありファンという設定なのだろうか?  あれだけ練習したコミュニケーションの取り方、用意したセリフはどうなるんだ?  僕は、全く場違いとしか思えない温度で、立ち尽くしていた。
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