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一体なんだって、こんな状況になっているんだろう?
もしかして「アイドルのライブ」がデートの趣旨だったりして?
いや、それならお相手はどこにいるんだよ?
じゃあ「アイドルになりきる」デートとか?
ええ!? じゃあ、次は僕の番だったりして?
マジか!? 舞台の上で歌えって?
そんなの、無理無理無理! 絶対無理だ!
っていうか、なんでライブハウス?
僕ってそういうキャラじゃないよね?
休む間もなくリレーのように、疑問と困惑が頭の中をぐるぐる回っていた。
「ありがとうございました!」
1曲歌い終わると、彼女はステージを降りて、僕のすぐ前までやって来た。
「あ、」
見たことある、この人、どこかで……。たしか有名なアイドルで……。
「最後まで聴いてくれてありがとね」
彼女の顔を認証すると、右端にプロフィールを見ることができる「P」のマークが現れる。
僕は「P」をタップしながら、声をあげた。
「思い出した。えっと、サクラ、さん?」
が、開かれたプロフィールには、小林もえ 28才、アパレル勤務、趣味は歌うこと。と書かれていた。そして当然のように「既婚」とも。
「あ、すみません、間違えました」
とっさに謝ると、彼女はくすくす笑いながら、いいの、いいの、と手を横に振った。
「リアルでもサクラに似てるって、よく言われるから」
「……そうなんだ」
僕はそれだけ言うと、次の言葉を探した。
正直なことを言えば、サクラというアイドルがいることは知っているけど、歌も知らなければ、興味もない。
リアルの彼女がサクラに似ていようが、いまいが、リアルで会う予定がないから確認しようもないし、確認したいとも思わなかった。
どうしよう。
絶対に無理だ。
この人は、僕には荷が重すぎる。
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