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レンVSサヨ
ゴーグルを装着して疑似恋愛アプリの世界にログインすると、いつものように意識が途切れるような感覚がした次の瞬間、僕は砂浜に立っていた。夜空に浮かぶ大きな月と瞬く星々が周囲の風景の群青を溶かして薄いブルーにしている。寄せては返す静かな波が幻想的に飛沫を上げていた。
僕の名はレン。リアルでは出会えなかった恋人を求めて、疑似恋愛アプリを利用している。このアプリを使い始めて二年近くがたったけど、まだ恋人ができたことはいない。
今度こそは……!
僕はそう強く願いながら、ビーチの砂を踏みしめた。
海を出会いの場所に選ぶユーザーは少なくないと聞いている。実際、リアルの世界でもデートスポットの定番だ。けれども、このすべてが青く染まる夜明け前のビーチの光景は、僕の心の中まで半透明のブルーするようで少し怖い。誰かに胸の内を覗き見られている気がして、心が淡くざわめいた。
「君がレンくん?」
「あ! はい」
振り向くとそこには色白で髪が腰まであるスリムな女性が立っていた。ロングスカートの裾を右手で持って海に濡れないようにしている仕草がすごく女性らしい。
「あなたは?」
「サヨだよ。よろしくね」
それから僕とサヨさんは波打ち際を歩きながら話をした。初対面だというのにびっくりするくらい僕らは話が合った。
僕が好きな昆虫や動物の話も、サヨさんはぐいぐい付いて来る。しかも、ただ聞くだけじゃなくて、僕の知らない知識までサヨさんは持っていた。
「魚って人間が他人の気持ちを察するみたいに、他の魚の恐怖を感じることができるんだって」
「へー。そうなんだ。だから、大きな群れを作って一斉に逃げたりできるんだな。生き残るための力だね」
するとサヨさんは少し遠い目をして、ゴッホの『星月夜』みたいな夜空を見上げた。
「そんな力、私はいらないな。たとえ生き残るためでも」
僕がサヨさんの澄んだ大きな瞳を見ると、彼女は悲し気に笑った。
「だって自分の怖さだけで手いっぱいだもん。他の人の怖さなんて知りたくないよ」
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