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その後も僕らの話はとても盛り上がった。興味があることが一緒であること以外でも、僕とサヨさんはとても似ている人間だったから。二人共、自分の孤独を一人ではどうすることもできないのに、他人の孤独を抱え込む勇気がないという意味で。
「今日はありがとう。とても楽しかった」
「僕も。サヨさんといると楽しいし、心が安らぐよ」
「……じゃあ、また会ってくれる?」
小首を傾げて長い髪をなびかせるサヨさんの仕草に僕の心臓が跳ねる。
「う、うん! もちろん!」
「よかった! 嬉しい!」
それからサヨさんは真剣な目で僕を見た。ちょっと怖いくらいの眼差しだった。
「ねえ、レンくん……あのさ」
「何?」
するとサヨさんはニコッと表情を崩す。
「やっぱりいいや。おやすみ」
細い手を振るサヨさんに手を振り返し、僕はログアウトした。
翌日の夜、再び僕はサヨさんに会いに疑似恋愛アプリの世界に向かった。目を開けると、やはり夜明け前のビーチ。
サヨさんが昨日と同じように右手でロングスカートの裾を持って現れ、左手を僕に向かって振る。
「ヤッホー。レンくん、こんばんは」
「こんばんは。サヨさん」
僕らは再び和気あいあいと話し込んだ。好きな料理、好きな音楽、好きな街、好きな映画……。どれも趣味が合って話がどんどん盛り上がる。
しかし、ある瞬間に僕は違和感を覚えた。
いくら何でも話が合い過ぎじゃないだろうか?
なんだか不安な気持ちになって、目の前のサヨさんの笑顔を見るのが急に怖くなった。
「どうしたの?」
突然黙り込んだ僕にサヨさんが不思議そうな顔をする。
「ねえ、サヨさん。僕さ。ミヒャエル・エンデの『モモ』って小説、好きじゃないんだけど、サヨさんはあの小説、読んだことある?」
すると、それまで上機嫌だったサヨさんの顔が凍りついた。『モモ』は本当は僕が一番好きな小説の一つだ。だから、サヨさんも好きな可能性が高い。けれども、サヨさんの顔は自分の好きな小説を否定されて不快というのとは少し違っている。
これは……そう。事前の情報とは違うという顔だ!
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